内容説明
宮沢賢治の作品は不思議な魅力にあふれている。現実と夢と死後の世界を越境してしまう登場人物たち、かたちや動きがあざやかに浮かび上がる擬音や造語、ちりばめられた暗喩のかずかず。故郷の岩手を飛び出し上京した青年期の手紙の分析から『銀河鉄道の夜』の丹念な読み込みの作業をとおして、生涯を決定した法華経信仰の理念が独特の自然把握や無償の資質と融合する地点に賢治像の基礎を画定する。作品世界における言葉と視線をたぐりよせる傑作詩人論。
目次
第1章 手紙で書かれた自伝
第2章 父のいない物語・妻のいる物語
第3章 さまざまな視線
第4章 「銀河鉄道の夜」の方へ
第5章 喩法・段階・原型
第6章 擬音論・造語論
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
23
☆☆☆ 宮沢賢治と法華経との関わりがこれほど強いと初めて知った。宮沢賢治を読む際のイメージが大きく変わった。宮沢賢治の物語は好きだが、人としては近寄りがたい人物に感じてしまった。生涯童貞というのもなるほどと思う。宮沢賢治が現代のように性風俗の情報にあふれた時代に存在していたら果たしてどうなっていたのであろうか?2013/12/29
浅香山三郎
12
吉本隆明氏の本はあまりたくさん読んではいないが、難解なものが多いなかで、本書は理解しやすく、的を射た宮沢賢治論といふ印象である。賢治の思想の根本を貫く法華経との連関を作品の理解の中心に据へるといふことが出来てゐるといふのが大きいのだらう(Ⅰ「手紙で書かれた自伝」)。吉本氏の1989年の仕事、賢治研究の見取り図を知ることもでき、また、巻末の年譜も分かりやすい。2025/04/27
テツ
12
宮沢賢治と法華経との関係。そこから紡がれた彼の物語。人はきっと生まれてから死ぬまでずっと孤独で、ずっと寂しい。熱が感じられない無限に広がる冷え切った宇宙の中を孤独にただ一人歩いていく。それでも、触れられなくても、自分には決して届くことはなく、手に入れることはできなくても、温かさを幻視することはあって、誰かが包まれているその温かさのために自らを擲つ覚悟が生まれることはある。カムパネルラやグスコーブドリのような最期を迎えるために、今でも賢治を読み、彼の世界から離れないようにしている。2021/02/16
うえ
9
「生命がよだかに生まれるか…鷹に生まれるか、あるいは人間に生まれるかは、前世の因果にもとづくと大乗教はかんがえる。だからじぶんが生物のうち何であるかは、悠久の生命の流れからは交換可能なものにすぎない…物語の源泉となっている感情は、この弱いものの性格悲劇と、自然のなかの生命維持にまつわる秩序と階層とが、からみあった場所にあった」「宮沢賢治じしんの思いこみでは、むしろ作品の本質の本質つまり作品の理念は、ここで片鱗をあらわしている「この人のほんたうの幸になるならというばあいの「ほんたう」の構造にあった」2017/01/10
OjohmbonX
7
賢治を読むときの寂しさなどを、彼の生い立ちや宗教感、視点から理由づけていく。でもその理由が吉本隆明でなくても語れそうな、賢治以外にも適用できそうな話で困惑する。後書きで、思春期からずっと全力をあげてぶつかっても倒れない相手に出会えたと愛着を示してて、これは倒さないように、愛着を守るために書き尽くせなかったのかと邪推したくなる。むしろ隆明が賢治の何を引用して、どんな問いを立てたかを読むべき本かも。あと賢治は知人に「射精したことないのは世界で自分含めて三人だけ」と言った伝説があるという妙な知識が得られました。2013/10/02




