内容説明
権力への意志とは何か。ニーチェの提唱する権力とは超人の理想、ディオニュソス的精神、さらに自由なる精神が発現される源泉としての生命の根源的な力である。権力への意志を偏狭な解釈のうちに閉じこめるのではなく、肯定的な価値として深く純粋に捉え得るかどうかは、われわれ自身の本書全体の理解にかかっているといえよう。ニヒリズムを超える新しい価値定立の原理を権力への意志に求めた晩年のニーチェ。彼が切り開いた未来の哲学の可能性はこの厖大な哲学的断章の森の中に秘められているのだ。本巻には全四書のうち、「第三書 新しい価値定立の原理」および「第四書 訓育と育成」を収録。
目次
第3書 新しい価値定立の原理(認識としての権力への意志;自然における権力への意志;社会および個人としての権力への意志;芸術としての権力への意志)
第4書 訓育と育成(階序;ディオニュソス;永遠回帰)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
25
「世界はおのれ自身で生きる」。意味もなく。なんら崇高なところもない事実である。それにあらゆる美学を付加することもせず、「然り」と言い放った。己自身の人生に関しても「然り」。つまり「これでいいのだ」と。ニーチェの思想は美文に彩られたマッチョな口調で訳されるし、女性に対する罵倒や嘲弄のくどさは辟易してしまうところもあるのだが、こう読めば実は意外としおらしいところもある「是認」の思想なのかもしれない、と思う。現実に対して理想を立ててどうこう言うのではなく、この世界をこそ生きる現場として生きよう、と。前向きになる2020/04/01
プロメテ
6
力、とは未定の、果てしのない現世的に終わりのない希求である。これは信仰である。この力とは原理的には、定義付ける言葉の力によりこの世を放擲する機縁となる言語機能だと思われる。力とは未来へ投機された信仰、かつ、古代の憧憬である。力、権力は、エントロピーの拡散とは真逆の、硬質に古代に横たわっているものである。時代が進むことは、人間の力が弱くなることである。ヒトラーのような独裁をニーチェが考えるとは思えない。この世の必然性とは拡散と弱体化であり、古代とは力であるなら、この思想は現世から遊離した何かを志向している。2024/04/17
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5
**哲学・上下巻感想**哲学ネタSF読解の為読了。ニーチェの生前、この『権力への意志』は著作物になっていない。なぜなら、彼はこの草稿をノートに執っているうちに発狂した為である。晩年のニーチェの大傑作!――本書は彼の身内がニーチェのプランに準じて編集したものです。しかし、その事情に関わらず本書は圧倒的に示唆に富む。それは現代社会が破壊的イノベーションという境地に立たされているからかもしれない。既成の価値に生きる他者にとっては変革は暴力になる。"権力"とは変革し、勝利した者のみが許された覇者の自己肯定である。2012/07/26
roughfractus02
3
生を肯定し、死を否定すると世界から死を前提とする初めと終わりが消失し、ニヒリズムやデカダンスをも乗り越えた永遠回帰する時に満たされるだろう。一方、生は権力への意志自身なのだから、その表現は欲望と美(身体)を肯定する芸術となる。苦しい現世を嫌悪して真の世界を作り、ルサンチマンから道徳を普及させ、認識優位の自然科学的世界像によって補強する哲学・宗教(形而上学)は、ここでは自らの欲求や解釈を正当化する真理への意志というバージョンにすぎない。本書は哲学と宗教を生と対立させるが、この世界では度合の差異となるはずだ。2017/08/13
call
2
上巻で提示されたニヒリズムの到来と破壊された最高価値にとって代わる新たなニーチェ流の価値の定立が探られている。認識、自然、社会と個人、芸術において権力への意志がどういう形態を取るのか(?)が述べられている。そして第四書ではまず階序を扱い最高の人間の役割を説いている。そして最後にディオニソスについて述べている。 「他人の徳を羨望しないこと」(430)2017/08/06