内容説明
韻文による壮大な哲学的主著『ツァラトゥストラ』を書き終えたニーチェが散文表現による体系的理論書として計画し、書き残した厖大な遺稿群の集成。ニーチェの実妹エリーザベトがペーター・ガストの協力を得て編纂したもの。本書は著作としては未完に終った思想的素材の塊りであるが、晩年のニーチェの思索生活の影が映しだされた精神のドラマの工房であり、彼の世界観形成の内部秘密に解明の光を投げかけてくれる思索の宝庫である。本巻には全四書のうち、「第一書 ヨーロッパのニヒリズム」および「第二書 これまでの最高価値の批判」を収録。
目次
第1書 ヨーロッパのニヒリズム(ニヒリズム;ヨーロッパのニヒリズムの歴史)
第2書 これまでの最高価値の批判(宗教の批判;道徳の批判;哲学の批判)
付録 計画と草案「ムザリオン版」
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
27
もちろん、勧善懲悪が成り立つならそれは理想的だろう。だが、悪を討伐せんとするあまり悪が内包している可能性まで捨て去ってしまって良いのか? ニーチェに従ってこう問いを立ててみるのも面白い。もちろん、それは悪を復活させろというおめでたい意見ではない。己が悪であり、弱者なのではないか。だからこそ生きづらいし、生きるための力(=「権力」)が湧いてこないのではないか。そう考えて読めば、もちろん決して読みやすい本ではないもののところどころにニーチェの「畜生!」という憤激と苦悶が読み取れて、いたたまれない感覚を抱くはず2020/03/29
プロメテ
12
途中からどうでもよくなった。後半一気に本自体がだれたか私の興味がなくなった。批判哲学、すなわち、世界外の拒否、と、故の世界内の権力の拡張。それ以外に何がある??イデオロギーまみれ、すなわちキリスト教の否定、その気分、ははっきり言って軽薄な真実の言葉とは言えないだろう。本質的な言葉ではないのだ。世界内で元気があること、それは呪詛まみれな生を、批判哲学をすることではないだろう。また、世界外へは、品位は、必然と向かうだろう。それが質だからだ。歴史的必然性ゆえに、世界外を向けないこと、それは価値のないことなのだ。2024/03/10
愁
6
未発表遺稿を編纂したもの…なのでいつもニーチェを読む時の様に「詩」を感じる事が出来ず残念。本人がこれらをどの様に広げようとしていたのか興味深い。
roughfractus02
4
ニヒリズムの歴史を辿りそれを肯定することは、至高の価値を作り出したキリスト教を徹底批判することと同義である。一方、至高の価値に対する反動形成としての道徳の奥には、倦怠から理想を立ち上げたプラトニズム哲学がある。ニヒリズムはそれらの価値が総崩れしつつあるヨーロッパの現実であり、著者はこの状況こそ新たな価値の創造の機会と捉え、権力への意志というパースペクティブを導入する。闘争と試行錯誤によって生き残るものの持続も闘争の中にあるような世界では、キリスト教的価値と哲学的真理もまた諸力の中の一つの力の持続となる。`2017/08/12
call
2
ニーチェの遺構を妹がまとめた本。道徳も、価値も、真実も、宗教もすべてはくだらないことであるということが語られている。まず、ニヒリズムの到来とその説明が行われる。そしてニヒリズムの到来にともなって、「これまでの最高価値の批判」がなされる。ノージック的というか、リバタリアン的だと思った(特に『アナーキー・国家・ユートピア』の最終章において)。個人の価値への介入もあるべきでないということだろうか。2017/08/05