内容説明
〈資本主義〉のシステムやその根底にある〈貨幣〉の逆説とはなにか。その怪物めいた謎をめぐって、シェイクスピアの喜劇を舞台に、登場人物の演ずる役廻りを読み解く表題作「ヴェニスの商人の資本論」。そのほか、「パンダの親指と経済人類学」など明晰な論理と軽妙な洒脱さで展開する気鋭の経済学者による貨幣や言葉の逆説についての諸考察。
目次
資本主義(ヴェニスの商人の資本論;キャベツ人形の資本主義;遅れてきたマルクス)
貨幣と媒介(媒介が媒介について媒介しはじめる話;広告の形而上学;ホンモノのおカネの作り方;はじめの贈与と市場交換;パンダの親指と経済人類学)
不均衡動学(不均衡動学とは;個人「合理性」と社会「合理性」;マクロ経済学の「蚊柱」理論;「経済学的思考について;知識と経済不均衡)
書物
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
禿童子
37
表題作『ヴェニスの商人の資本論』、『キャベツ人形の資本主義』などなどネーミングが上手いのでついつい手に取って読みたくなる。読んでいく内に「あれ、これってエッセイなの?それとも経済論文?」と難解な淵に誘い込まれてしまう。岩井克人の専門分野「不均衡動学」は、かつての大学でうろ覚えに終わったワルラスの一般均衡理論やら合理的期待形成理論など、需要と供給の関係をめぐるお話だとは分かるが、噛んでもかみ切れないがそのうちジワジワ味が出てくるスルメのごとし。80年代に流行った構造主義の香りもほのかに感じられる。2024/11/06
ばんだねいっぺい
32
経済学に疎いので一知半解という感じ。シェイクスピア文学に絡めた「ヴェニスの商人の資本論」が読みやすく、面白かった。蚊柱の遠近法。「媒介」という役回り。はじめに「贈与」ありき。2017/01/14
さきん
24
前半のヴェニスの商人は、貨幣経済の原型を求めるものであり、遠隔地との差異の他、ユダヤ人、ヴェネツィア人とのコミュニティの差異に着目し、そこから贈与と利子、商取引が切り分けられていることを示している。また、後半は、新古典派の言う神の見えざる手がマクロ経済において全く機能しないことを解説。蚊柱の例がわかりやすかった。結局、計算外の要因がたくさんありすぎるし、また計算外の要因を省くと逆に貧富が拡大して、社会が衰退する。ケインズの有効需要は、金持ちにも貧乏人にも近いところにエサをばら撒く作戦ではある。2025/05/10
kk
22
経済や貨幣などのあれこれついてのエッセイ集。表題作は、シェークスピアの名作の筋を追いながら資本主義の本質を語ろうとする洒脱な試み。ほんとに上手いこと言うもんだなと、ひたすら感心。とは言え、不均衡動学の解説以降の部分は、kkには十分には咀嚼できませんでした。まだ修行が足りないかな。2020/07/19
やまやま
17
やはり表題である冒頭のエッセイが味わい深く、注で書かれているように、奥様の登場人物の理解と著者の経済学的な発想がよく組み合わさり、時代を経ても新鮮に読める作品だと思います。テンニース的にアントーニオたちの共同体とシャイロックのユダヤ経済社会がどういう関係で交わっているか、という視点でいくつかの事象が整理されていますし、それは意表をついているので大学の入試問題のネタになるのも理解できます。ところで、書中「資本主義」という言葉で指される事柄のいくつかは「市場経済」ということかと思いました。2020/10/17