内容説明
〈資本主義〉のシステムやその根底にある〈貨幣〉の逆説とはなにか。その怪物めいた謎をめぐって、シェイクスピアの喜劇を舞台に、登場人物の演ずる役廻りを読み解く表題作「ヴェニスの商人の資本論」。そのほか、「パンダの親指と経済人類学」など明晰な論理と軽妙な洒脱さで展開する気鋭の経済学者による貨幣や言葉の逆説についての諸考察。
目次
資本主義(ヴェニスの商人の資本論;キャベツ人形の資本主義;遅れてきたマルクス)
貨幣と媒介(媒介が媒介について媒介しはじめる話;広告の形而上学;ホンモノのおカネの作り方;はじめの贈与と市場交換;パンダの親指と経済人類学)
不均衡動学(不均衡動学とは;個人「合理性」と社会「合理性」;マクロ経済学の「蚊柱」理論;「経済学的思考について;知識と経済不均衡)
書物
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ばんだねいっぺい
32
経済学に疎いので一知半解という感じ。シェイクスピア文学に絡めた「ヴェニスの商人の資本論」が読みやすく、面白かった。蚊柱の遠近法。「媒介」という役回り。はじめに「贈与」ありき。2017/01/14
kk
19
経済や貨幣などのあれこれついてのエッセイ集。表題作は、シェークスピアの名作の筋を追いながら資本主義の本質を語ろうとする洒脱な試み。ほんとに上手いこと言うもんだなと、ひたすら感心。とは言え、不均衡動学の解説以降の部分は、kkには十分には咀嚼できませんでした。まだ修行が足りないかな。2020/07/19
やまやま
17
やはり表題である冒頭のエッセイが味わい深く、注で書かれているように、奥様の登場人物の理解と著者の経済学的な発想がよく組み合わさり、時代を経ても新鮮に読める作品だと思います。テンニース的にアントーニオたちの共同体とシャイロックのユダヤ経済社会がどういう関係で交わっているか、という視点でいくつかの事象が整理されていますし、それは意表をついているので大学の入試問題のネタになるのも理解できます。ところで、書中「資本主義」という言葉で指される事柄のいくつかは「市場経済」ということかと思いました。2020/10/17
デビっちん
16
『ヴェニスの商人』という劇は肉1ポンド切り取るやり取りを見て、一休さんのような印象でした。しかし、その裏では数種もの価値交換が行われていることがわかりました。「貨幣」というメガネをかけると見えてきます。2021/08/19
またの名
16
推し作品の至る所にマイ理論の正しさを証明する根拠が溢れてるのを見出すオタク考察のように、有名古典の中に書かれた経済学的思考を表題作は発見。文学の中に理論を読み込むのに加え理論を文学的な表現で描き直すニューアカしぐさによって、お肉券やお魚券でなくとも決して国民に返済するつもりのない銀行券という債券は、国民から中央銀行への一方的贈与として不等価交換を繰り返し、始源に起きた搾取に他ならない一方的贈与の痕跡があらゆる市場交換において反復されると解説。とにかく市場は不均衡という主張を、繰り返し著者から贈与される本。2020/03/29