出版社内容情報
異民族による巨大帝国支配。
天下を統合した思想の変遷に迫る。
“野蛮な夷狄“が新たな中華文明を拓いた
中華思想は文明の優劣で人々を区別する発想である。文明のある世界を中華とし、その周辺には野蛮な夷狄がいる。そして夷狄は中華に何も残さなかったものだと長らく考えられてきた。しかし注意深く歴史をみていくと、夷狄であるはずの遊牧民はむしろ中華文明の形成に積極的に関わり、新たに持ち込み、主体的に選別し、継承してきたことがわかる。中華文明拡大の要因は、あらゆるものを内部に取り込んで膨張していく性質にある。逆に言えば、気づけば夷狄も中華になっているのだ。本書は、中国史を遊牧民の視点から捉えなおすことにより、中華の本質に迫る一冊である。
内容説明
“野蛮な夷狄”が新たな中華文明を拓いた。異民族による巨大帝国支配。天下を統合した思想の変遷に迫る。
目次
第一章 中国史にとっての遊牧民
第二章 中華文明の成立と夷狄
第三章 中華古典世界と夷狄
第四章 中華と夷狄の対峙
第五章 夷狄を内包する中華世界
第六章 夷狄による中華の再生
第七章 新たな中華の誕生
著者等紹介
松下憲一[マツシタケンイチ]
1971年、静岡県生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士後期課程東洋史学専攻修了。博士(文学)。愛知学院大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
よっち
27
中華文明の形成に積極的に関わり、新たに持ち込み、主体的に選別し、継承してきた遊牧民たち。中国史を遊牧民の視点から捉えなおすことにより、中華の本質に迫る1冊。中国の王朝交代と文明の中で、遊牧民はどのような役割を果たしてきたのか。中国王朝の成立と夷狄との関係に始まり、匈奴国家成立による対立関係、匈奴の臣従と五胡十六国時代の夷狄による中華の再生、隋唐時代の中華再統一に至るまでの過程を扱っていて、同化していった遊牧民が持ち込んだものもまた少なからず中華に影響を与える形で成立していったことが伺えて興味深かったです。2025/06/06
kk
21
図書館本。唐朝までの歴史を辿りながら、周辺民族との様々なインタラクションの中で中華の形が変容を遂げてきたことを示そうとしているものの如し。その意気に感心。他方で、紙幅の大半は北方騎馬民族の消長や文化的・社会的特徴、それら民族興隆の背景などに充てられている印象。先史文明の淵源や華夷思想の濫觴などは別として、周辺から中華への影響については、椅子だのテーブルだのに触れているのみ。南方諸民族と南朝との関係などはスルー。問題意識とプロダクトの間に些かのギャップなしとしない感。著者よりも寧ろ編集者に更なる工夫を期待。2025/07/30
ピオリーヌ
17
ちくま新書2025年の刊。以前に同著者の『中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史』を読んだことがある。副題のとおり、中国史を遊牧民からとらえ直す内容で時代は先史から唐までが扱われる。唐までは王朝交代が禅譲型、宋以降の王朝交代は放伐型で行われており力による中華支配が当たり前になってきた。五胡十六国から唐は、中華のなかにどのように溶け込んでいくのかを模索し胡漢融合を果たした。遼・金・元・清は中華と夷狄を共存させる胡漢併用をはかった。先行研究を丁寧に追っている印象があってお薦めの一冊。2025/08/07
MUNEKAZ
17
副題がすべて。「中華とは何か」と振りかぶるから概念的な話題が来るかと思いきや、実証史学の具体的な描写が続く。北方の異民族が「漢化」したと一口に言うが、その実は中原を支配した征服者が、能動的に中華の文明を取捨選択したもの。とくに諸部族が並立する体制を変化させるために、支配層を「漢化」させることで、新たな階層を作り出すという部分は面白かった。「中華」に限らず文化とは固有のものではなく、変幻自在で可塑的に作られてきたものだよということ。良い概説書だと思うけど、主題と副題は逆のほうがよかったかな。2025/07/04
電羊齋
17
著者はまず「中華思想」には排他的側面だけでなく、徳を持つ者が「中華」であり、周辺の「夷狄」も「中華」になれるという融合的側面もあることを指摘する。その上で時に「中華」を支配した遊牧民の視点から「中華」について語る。本書からは「中国」・「中華」・「中華思想」・「漢人」・「漢族」は、遊牧民など周りの集団・文化を取り込んで絶えず変化してきたこと、そして遊牧民たちも決して単純かつ一方的に「漢化」したのではないことがわかる。これまでの研究成果を堅実に踏まえた概説であり、要所要所をしっかり押さえていると思う。2025/05/17