出版社内容情報
すみっこはよくない。
孤立したアリは、なぜ早死にするのか? 分子生物学で、その謎を解く!
集団をつくり、他者との関わりをもって生きていこうとする性質である「社会性」……本書では、昆虫が苦手だった筆者がすっかり魅了され、10年以上にわたって見つめてきた、アリの不思議な世界をご紹介します。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
118
タイトルから、生態学的な研究、ひいては集団行動に対する社会学的な成果を期待すると裏切られる。本書は、もっと真面目な分子生物学の取り組みである。著者は、孤立アリの早死が、活性酸素の増加であり、それが脂肪体に蓄積していることを突き止める。さらに、細胞内のmRNAを網羅的に解析するトランスクリプトーム解析によって、遺伝子レベルでその仕組みを明らかにしようと奮闘する。小さなアリの内臓をすり磨り潰したり、細胞を染色したり、解剖をするなど、昆虫研究の困難さと闘う若き科学者としての著者の姿勢に、心からエールを送りたい。2025/08/15
うえぽん
51
産総研主任研究員によるアリの社会性研究に係る著作。アリは女王アリ・労働アリのカーストの存在などから霊長類とは区別される真社会性を持つとされ、個体間の栄養交換や、年をとるとコロニーから外勤に変わる齢依存的な労働分業を行うとする。1944年の孤立アリの早死に係る論文の検証を行い、壁際での滞在という行動変化が脂肪体での活性酸素の発生とそれによる短寿命に関係していることを立証。労働アリが女王アリから離れるのは子孫を残す機会を失わせるもので、ヒトの孤立とは異なるが、孤立の影響の探究にアリが役立つのか関心を持ちたい。2025/05/24
ばんだねいっぺい
27
非常にあっさりとした文章で驚くほど読みやすい。孤立アリの研究結果は、割合、はっきりと出ており、寿命を伸ばすヒントがあると感じた。2025/05/23
tom
23
一匹だけにされてしまったアリは、壁の隅に張り付いて、あっというまに死んでしまう。このことは80年前にレポートされていた。留学先のローザンヌでちょっと行き詰っていた著者は、このレポートを知って研究を始める。きっと最初は何でという不思議感だったと思うのだけど、著者は、薬学と発生生物学、分子生物学の研究者、様々な技法を使って孤立環境→脂肪体での活性酸素の発生→短寿命の流れがあることを示す。右から左から、裏から表から、この命題を検証する過程がとても面白い。留学して結婚して妊娠して、それでも研究を続けた筆者に敬意。2025/07/08
流石全次郎
18
新聞の書評で見つけて、そのまま本屋へ行って入手。社会生活を営むアリを単独にして孤立させると短命になる。そこから始まる生命の仕組みの探求。神経活動の変化や酸化ストレスに注目した実験。発生生物学や分子生物学に従事していた著者は生態学の世界に飛び込んで得られた研究結果が記録されている。2025/08/14