出版社内容情報
ウクライナの現地調査に基づき、ロシアのクリミア併合、ドンバスの分離政権と戦争、ロシアの対ウクライナ開戦準備など、その知られざる実態を内側から徹底解明。
内容説明
冷戦終了後、ユーラシア世界はいったん安定したというイメージは誤りだ。ソ連末期以来の社会変動が続いてきた結果としていまのウクライナ情勢がある。世界的に有名なウクライナ研究者が、命がけの現地調査と一〇〇人を超える政治家・活動家へのインタビューに基づき、ウクライナ、クリミア、ドンバスの現代史を深層分析。ユーロマイダン革命、ロシアのクリミア併合、ドンバスの分離政権と戦争、ロシアの対ウクライナ開戦準備など、その知られざる実態を内側から徹底解明する。
目次
第1章 ソ連末期から継続する社会変動
第2章 ユーロマイダン革命とその後
第3章 「クリミアの春」とその後
第4章 ドンバス戦争
第5章 ドネツク人民共和国
第6章 ミンスク合意から露ウ戦争へ
終章 ウクライナ国家の統一と分裂
著者等紹介
松里公孝[マツザトキミタカ]
1960年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科教授。法学博士。専門はロシア帝国史、ウクライナなど旧ソ連圏の現代政治(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぐうぐう
34
連日トップニュースで報じられるパレスチナ情勢を見ていると、まるでロシアによるウクライナ侵攻が終結したかのような感覚に陥ってしまう。あれほど紙面や時間を要して報じられてきたウクライナが、パレスチナ問題の陰に隠れて姿をなくしてしまっているからだ。マスメディアは一色に染め上げることを得意とし、それは別の色の存在を希薄にするという負の効果を促していく。そんな歪な状況だからこそ、現在読むべきではないかと、本書を手に取った。(つづく)2023/11/24
紙狸
21
2023年刊行。ソ連解体に伴い独立して以降のウクライナ政治の詳細な分析。2014年にロシアに併合されたクリミア、2022年以降のロシアの全面侵攻で併合されたドンバス地方に重点が置かれている。2014年にヤヌコヴィッチ大統領を失脚させた大衆運動「マイダン革命」について、日米欧のメディアの報道とは違って批判的だ。マイダン革命で権力を握った勢力には、反対派への暴力・殺害など未解明の疑惑がある。クリミアやドンバスのロシア語系住民から見ると、マイダン革命派に対して拒否感を抱いても当然だったという見方だ。2024/02/24
Toska
20
我々はソ連に復讐されているのだろうか。政治的にも経済的にもボロボロだったソ連末期、この「お荷物」さえ放り出せばすぐ幸せになれると誰もが思い込んでいた。反面、ソ連が営々と築き上げてきた産業や学術などのシステムをご破産にすることで何が起きるのか、真剣に考えた者はいなかった。結果、2020年のウクライナ実質GDPは1990年当時の63.2%(!)にとどまるという惨状。ロシア経済がこれよりましなのは資源があるからにすぎない。この貧しさこそがあらゆる問題の根源と著者は喝破する。2023/12/22
Francis
15
502頁もある大著。ウクライナは旧ソ連の崩壊により誕生した多様性に富んだ国家であったため、ドネツク、ルガンスク両人民共和国、クリミア併合などの分離運動を生み、それがロシア・ウクライナ戦争を招いたことが語られる。と書けば簡単なのだが、問題が複雑なうえ、登場人物も多数に上るため理解するのに時間がかかった。このような多様性のある国をまとめるには経済成長と繁栄が必要であり、、イデオロギーや言語はあてにならない、とはその通りなのだと思う。あとは独立戦争時に宗主国と一緒に戦った、と言う物語も必要なのだろう。2023/07/21
ふぁきべ
13
ロシア寄りというよりはウクライナ東部の独立派寄りな姿勢はやや垣間見えるが、ウクライナで起こっている問題の根源的な背景を非常に丁寧かつ詳細(ともすれば詳細すぎるほど)に紹介している。私にはロシアのこの問題への姿勢が場当たり的で、ウクライナ内部の政情に引っ張られた結果としてのウ露戦争であるとは思えないが、ウクライナの民族主義的な志向がロシア語話者の動向に多かれ少なかれ影響を与えたことは否定できないだろう。ウクライナの独立とその領土の一体性は支持するが、分断を招く政策には修正が必要に感じる。2023/10/31