出版社内容情報
フランス革命の反体制思想は、いかにして保守の「愛国」思想を生んだのか? 古代ローマにおける起源から明治日本での受容まで、その思想的変遷を解き明かす。
内容説明
「愛国」思想は現在、右派や保守の政治的立場と結びつけて語られる。しかしその起源は、かつて古代ローマの哲学者キケロが提唱したパトリオティズムにあった。フランス革命では反体制側が奉じたこの思想は、いかにして伝統を重んじ国を愛する現在の形となったのか。西洋思想史における紆余曲折の議論を振り返り、尊王思想と結びついた明治日本の愛国受容を分析、さらに現代のグローバルな視点からパトリオティズムの新しい可能性を模索する。
目次
第1章 愛国の歴史―古代ローマからフランス革命まで
第2章 愛国とは自国第一主義なのか
第3章 愛すべき祖国とは何か
第4章 愛国はなぜ好戦的なのか
第5章 近代日本の「愛国」受容
第6章 「愛国」とパトリオティズムの未来
著者等紹介
将基面貴巳[ショウギメンタカシ]
1967年神奈川県横浜市生まれ。ニュージーランド・オタゴ大学教授。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。シェフィールド大学大学院歴史学博士課程修了(Ph.D)。ケンブリッジ大学クレア・ホール・リサーチフェロー、英国学士院中世テキスト編集委員会研究員等を歴任。専門は政治思想史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ふみあき
24
古代ローマにまで遡れば、パトリオティズム(愛国)の内実は多様で、忠誠の対象が「郷土」ではなく「共通善」であること(共和主義的パトリオティズム)もあったが、近代以降はバークの登場によってナショナリズム的(あるいは保守的)パトリオティズム一択になってしまった。著者は「バークの呪縛」から解放され、憲法パトリオティズムや環境パトリオティズムに替えるのが望ましいと、ミルトン、ヴォルテール、モンテスキューら、当時のコスモポリタンたちの言を引っ張ってきて主張する。が、グローバル・エリートの傲慢さの臭いがしないでもない。2022/06/14
無重力蜜柑
22
良著。「愛国」概念を巡る思想史だが、英語だとパトリオティズムであるこの言葉が愛「国」と翻訳された経緯まで説明してる。もともとパトリオティズムというのは究極的な忠誠の対象である「パトリ」のために献身する姿勢のことで、近代的な意味での国=国民国家とは限らない。源流はキケロの論じた二つのパトリで、市民的パトリは市民としての義務を負う法的共同体のこと、逆に自然的パトリは生まれ育った村や町のこと。さらにパトリオティズムにも平時のものと戦時のものがあるが、本書の主題はこの「パトリ」とは何かということだ。2022/10/04
buuupuuu
16
パトリオティズムとは共同体への義務や献身である。古代や中世のそれらを一括りにすることはできないが、それでもそれらとバーク以降のパトリオティズムの間には断絶があるという。近代以降のそれは、自国第一主義と結びつき、共同体の紐帯を家族等の愛着関係の延長と捉え、伝統や歴史をこそ我々が守るべきものと考える。ここに我々にも馴染みのある愛国主義が誕生する。ともあれ、現代のような個人主義の時代にパトリオティズムを考えることは、我々が何に生かされ、共同で何を守っていくべきかを考える思考の枠組みを与えてくれるのではないか。2022/07/19
masabi
13
【概要】愛国と訳されるパトリオティズムの変遷を解説し、現代に相応しいあり方を模索する。【感想】パトリオティズムは現在では国家に対する究極的な忠誠、献身と解される。しかし、歴史的にはその対象は近代国家に限らず、時に国家を超えて市民的自由や共通善が献身の対象になった。筆者が模索するのも、自国愛を抑制し世界規模の問題を解決に導く原動力になる新たなパトリオティズムだ。その具体例としてルールとプロセス、環境を挙げる。ただ、行動するだけでなく献身する覚悟がそうそう芽生えるのか疑問がある。2022/11/09
たか
8
「愛国」の源流であるパトリオティズムの歴史を紐解き、いわゆる愛国がバークによって再解釈された一形態であることを明らかにし、未来に向けたあるべきパトリオティズムを考える。「国」がパトリアであることは自明でない。予め定まったアイデンティティを守る態度ではなく、それぞれがヴィジョンをもち実現を目指す行為こそを重視すべきという結びに共感。普遍主義的な価値観をナチュラルに上位に置いている点は気になるが。またバークの否定的な部分に多く言及されているが、宇野重規『保守主義とは何か』のバーク評をみるとまた違う印象がある。2022/12/31