出版社内容情報
東日本大震災後、列島中がなびいた〈絆〉という価値観。だがそこには暴力が潜んでいる?〈絆〉からの自由は認められないのか。哲学にしかできない領域で考える。
内容説明
東日本大震災後、絶対的価値となった“絆”という一文字。テレビは「優しさ」を声高に称揚するようになり、列島中がその大号令に流されて、権威を当然のものとして受け入れてしまったかに見える。だが、そこには暴力が潜んでいないだろうか。陰影のある、他の「繊細な精神」を圧殺する強制力がはたらいているのではないだろうか。哲学にしかできない領域から“絆”からの自由、さらに“絆”への自由の、可能性を問いただす。
目次
第1章 “絆”は重苦しい
第2章 “絆”は有益である
第3章 組織における“絆”
第4章 (なるべく)他人に同情しない
第5章 (自他の)孤独を尊重する
第6章 生命は最高の価値か?
第7章 “絆”からの自由・“絆”への自由
付録(美談が覆う真実もある(東京新聞)
『がんばろう日本』という暴力(新潮45)
「いい人」だからこそ陥る「みんな一緒主義」(児童心理))
著者等紹介
中島義道[ナカジマヨシミチ]
1946年福岡県生まれ。東京大学法学部卒。同大学院人文科学研究科修士課程修了。ウィーン大学基礎総合学部修了(哲学博士)。電気通信大学教授を経て、現在は哲学塾主宰(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アナーキー靴下
88
職場の人間関係に悩んでいて、辛辣な言葉を投げつけられて苦しいのに相手を嫌いになれない、それどころか接点がある以上は今後も自動的に好きになり続けてしまうことに気付いた。職場という仮想世界、この本でいうところの絆だ。絆で結ばれた相手を意志の力で嫌いになれるだろうか、その模索のために読んだ。全体として、こうした視点で語る本は新鮮で、良い刺激を貰えた一方、著者の結論、「自分の信念と感受性に適合した絆を創ることによって(中略)絆からの自由をこの手に確保できるのである」は、間違いなく今私の求めるものではなかった。2022/06/13
D21 レム
29
日頃感じているが、感じていることを自覚していなかったことがでてきて、共感するところがたくさんあった。しかし、その心の通りに生きることがむずかしいことも、わかった。それを味わって作品にするとか、まず社会に認められる仕事をするとかしないと、得られるものがでてこない。不快な絆を捨てたら、そうでない絆をつくり、同じ繊細な精神を持った人が集まる。ハードルが高い!葬式や戦争や善人についての記述が具体的だった。ともかく、自分が不快になることはやめようと思った。媚び、傲慢、自己欺瞞、善人病からの自由。2015/11/07
ichiro-k
28
相変わらず「みんな一緒主義」は著者にとって耐えがたいようだ。しかし、金を払って著作を購入している人は「みんな一緒主義」に日々耐え、本当は関わりたくもない善人と愛想笑いを浮かべ付き合って稼いでいる人間、ということに気がついたんだろうか?すこし過激さ薄くなっている。それも欺瞞? 2015/10/24
百太
26
哲学だね。哲学よね・・・。確かにモャッとする時があり、アドラー理論読んだ時の衝撃に近いです。2017/03/13
しんすけ
19
2011年の3月以降は自由が失速していった感が拭えない。そして今は大いなる危機に直面している。 読書メータでも「反原発」などの著名な本に好意的な感想を書くと、ヘイト的なコメントが返ってくる。それは「絆」に従わない者を反日とする脅迫であることが多い。 金子みすゞの詩が作者の意図に反して、奇妙な連帯感を造成してしまったのもその一因であろう。2020/08/02