内容説明
日中戦争中、格差の是正・政治への不信・共同体志向などが大衆の間に広がっていた。その様相はまさに現在の日本と重なる。そういったなか、戦争勝利へ向けて国民を一致団結させるために国民精神総動員運動が開始される。「日の丸を敬う」「節約した生活」「前線と心を共にする」など上からの国民運動が巻き起こった。果たしてこの運動は当時の国民の期待に沿うものだったのか。その実態はどのようなものだったのか。いままで見逃されてきた戦時下の日本社会を克明に描く。
目次
第1章 「体を鍛えよ」といわれても
第2章 形から入る愛国
第3章 戦前昭和のメディア戦略
第4章 気分だけは戦争中
第5章 節約生活で本当に国を守れるのか?
第6章 戦争の大義はどこへいった?
第7章 ファシズム国家になれなかった日本
著者等紹介
井上寿一[イノウエトシカズ]
1956年東京都生まれ。一橋大学社会学部卒業。同大学大学院法学研究科博士課程、一橋大学法学部助手などを経て、学習院大学法学部教授。法学博士。専攻は日本政治外交史。主な著書に『危機のなかの協調外交』(山川出版社、吉田茂賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kinkin
109
私が知っている戦時下の理想スローガン「欲しがりません勝つまでは」「『子だくさんもご奉公』」「ぜいたくは敵だ」「『足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」など。当時の戦況を読んでゆくとこんな言葉にであった。これらの他にも多くのスローガンが巷にあふれていたようだ。ここでいう理想は国民を統制すのに都合のよいものばかりで、国民どうしを互いに監視などの使われる目的も多かったようで「隣組」制度などはそれらの最たるものだった。今のロシアも多分同じなのだろうか。図書館本2022/04/01
おかむら
42
戦前の日本人は立派でした、と保守の人たちは言いがちですが。そうでもないわ。日中戦争開始とともに国が始めた国民精神総動員運動。日の丸を敬い、質素倹約に努め、前線の兵士と心を共に。ほんとうに日本国民は一致団結してやってたのか? わりとサボったりテキトーにこなしたりする人もいて今と変わらず安心したわ。「戦争は一体何時終わるのかナー」っていうのが当時の国民世論だったそうで。戦時下でもアメリカと戦って負けだす前の、比較的呑気な時代の空気が面白い。2017/04/18
きいち
32
戦争への動員を盛り上げるための「国民精神総動員運動」の4年間。いやはや、担い手たちは大真面目だけど空回りの連続。上からの運動っていうことは、やってる人は当事者じゃない人。善意はむしろ害を生むし、無責任の温床となる。ああ、五輪委と一緒の構造か。◇一方で格差の平準化やセーフティネットの拡充へと成果を上げていくのが38年創設の厚生省。国民皆保険も労災もここから。さらに農、商工、教育、現場発の施策の実現のためにこの運動の力が活用され、格差を平準化する力を持った総力戦体制が完成していく。◇白黒つけないでいなきゃな。2015/10/25
タルシル📖ヨムノスキー
20
第二次世界大戦中の「国民精神総動員運動」にスポットを当てた本書。「欲しがりません勝つまでは」「子だくさんもご奉公」「ぜいたくは敵だ」「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」などマスコミを総動員してスローガンを掲げ、挙国一致や勤労奉仕、質素倹約を声高に叫んでも、やることで得られるインセンティブを明確にしないと、やっぱり人は動かない。まずは上に立つ者が率先して実行してみせないと。これは会社組織でも同じ。何かプロジェクトを進めていくとき、上位下達ではなくて下位上達の形になるのが理想だけれど、上は上で頭が硬いしなかなかね。2023/12/17
ロッキーのパパ
19
国民精神総動員運動の成立から太平洋戦争突入前までの日本の社会状況を解説している。総動員体制といわれ、日中戦争の戦時下にあったけど、戦時色一色に染まっていないことを浮き彫りにしている。他の本にも書いてあったけど、まだ生活を楽しむ余裕を感じられた。でも、アメリカとの関係が決定的に悪化すると、その状況も一変した。当時も対米関係の影響の大きさをうかがわせる。本書のもう一つのテーマである現代との類似性に関しては、空気に流される国民性に変わりはないってことか。2013/07/03