出版社内容情報
中心のために周辺がリスクを負う「広域システム」。その巨大で複雑な機構が原発問題や震災復興を困難に追い込んでいる現状を、気鋭の社会学者が現地から報告する。
内容説明
中心(中央)のために周辺(地方)がリスクを負い、中心から周辺に利益が還流する「広域システム」。その存在を顕在化させたのが今回の震災であり、福島原発事故だった。東北において典型的に見られる「中心‐周辺」のシステム形成史をたどり、そのシステムから脱却するために、周辺に暮らす人々や自治体がいかに主体的に動くべきなのかを考察。広域システム災害一般の問題と、東北社会特有の問題との両方を論じた先に見えてくる、未曾有の災害を乗り越える新しい社会のあり方を構想する。
目次
第1章 広域システム災害
第2章 平成三陸大津波
第3章 東北という場
第4章 原発避難
第5章 復興と支援
第6章 システム、くに、ひと
著者等紹介
山下祐介[ヤマシタユウスケ]
1969年生まれ。九州大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程中退。弘前大学准教授などを経て、首都大学東京准教授。専攻は都市社会学、地域社会学、環境社会学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
14
買おうと思ったが図書館で借りる。丹念な被災地フィールドワークと理論(史実)を兼ね備えつつ、震災復興論を展開される。社会学特有の、分量が多くなりがちな叙述。21世紀は大きなシステムが前提で、小システムが成り立つという認識のようだ(087頁)。近代化のところは、評者が取り上げるなら、鶴見和子先生の『日本を開く』岩波書店や夏目漱石の「現代日本の開化」を引用すると思った。主体を問うのは常套である。中心と周辺はI.ウォーラーステインから来ている理論だと思うが、国内には岡橋秀典教授がいたのを想起した。生活と生業の力。2013/07/03
ぐうぐう
11
震災をめぐる論考には様々な観点があるが、本書は社会学から復興を見つめることで、問題点を炙り出す。現代日本社会は、効率化を追及した結果、インフラや交通網、通信網を広域で行うシステムを採用している。それが政治や経済をも覆っている。しかし、今回の震災により、その広域システムが崩壊してしまったと著者は言う。いや、そもそも広域システムに存在していた問題点を浮き彫りにしたのだと。(つづく)2013/05/04
Kazuo
6
P158「今回の事故を、技術的な問題や政治的判断の過失として解こうとする人が多いが、それは誤りである」。東北復興について、現在の行政/立法および与党が短期的に失敗しており、また長期的には国家ビジョンを持っていないことが、震災の陰画として明らかになった。東北の復興=どのような世界を我々は、より望ましい世界として今後創造していくのか。この問題は我々自身が、自分自身のために、直接向き合い一生をかけて答えを出す問いそのものである。本書は、その問題の立て方の示唆を与えてくれる。2017/05/13
茶幸才斎
4
我々は複雑な広域システムの中で、なかば主体性を失い、だが便利で豊かに暮らす。先の震災と原発事故は、複雑な広域システムを破壊し、ために電力会社も政府も科学者もみな無力で、システムに内在する「中心−周辺」関係だけを際立たせた。かつ、その後の被災者支援と復興においても、主体を欠くシステムの論理が作用している。かかる問題提起を前に「我々はシステムに包摂され無力だ」と都合のよい謙虚さを発揮する態度は、欺瞞であり怠惰である。我々には、システムを築くのに用いたのと同じ知恵と技術を動員し、それを正すべく努める義務がある。2015/04/22
takao
2
広域システムが大きすぎる問題点(個々の人ではなく数値として把握されている。システムの綻びや社会の破局)を指摘し、それを踏まえた上で、広域システムの合理化に対向する「知」は西洋近代と異なる論理が必要で、東北は新しい社会形成の実験場としての再生を訴えている。 しかし、その指摘の根本は我々の生活がインター・ディペンダントであることから発生するものであり、社会が段々とその傾向を強めているからに他ならない。何をどこまでディペンダントし、どこまでインディペンダントを貫くのか、そういう覚悟の問題ではないかと思う。 2018/10/03
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