内容説明
さまざまな民族・言語・宗教が複雑に入りくんでせめぎあう地域に成立したオスマン帝国は、イスラム世界の伝統の下で、多種多様な人々を包み込みながら六世紀以上にわたって存続したが、近代西欧の影響を受けつつ解体した。現代のバルカン・中東で激発する民族紛争の源流であるオスマン帝国解体の過程を克明に描き、現代政治にも連なる問題を解き明かす。
目次
第1部 民族国家と文化世界(一つの世界の誕生以前―諸文化世界の併存していた頃;民族国家への憧れ;「西洋の衝撃」としてのネイション・ステイト)
第2部 文化世界としてのイスラム世界(文化世界としてのイスラム世界の構造;イスラム世界秩序;アイデンティティ・統合・共存)
第3部 オスマン帝国の場合(イスラム的世界帝国としてのオスマン帝国;「パクス・オトマニカ」の構造;「西洋の衝撃」とナショナリズム ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
bapaksejahtera
17
西欧が形成し彼らの覇権によって世界共通のパラダイムとなったネイションステーツによる衝撃が如何に甚大であったか、歴史的な長期に渡りスルタンカリフ制による支配を継続したトルコ帝国の崩壊を例に述べる。前半部分は書題から離れ、多義的概念であるネイションの解説を始めとした周到な説明に費やす。テーマは余りに広大で、到底新書では語り尽くせぬ内容である。私は本書を国民国家論として読んだが、多少前提知識を有する私も全容咀嚼に苦労する。読者層の多くは困惑するだろう。しかし20年近く後講談社学術文庫で再刊される名著であるのだ。2023/08/07
ピオリーヌ
9
旧大陸(アジア、アフリカ、ヨーロッパ)にまたがる一大勢力として君臨し続けたイスラーム勢力。そのいわば完成形として登場したのがオスマン帝国。その統治の実態は、イスラームを核としながらも、多民族、他宗教をまとめあげる比較的ゆるやかな統治システムであった。しかしこのシステムが西洋の衝撃によって動揺を受け、ネイションシステムへの対応を迫られる困難が描かれている。中でも新教がチェコではほぼ残らず、かえってオスマン帝国統治下のセルビアで残存している点が新鮮な発見であった。2019/11/09
Kazuo
9
北アフリカ、ハンガリーまでも支配下の置き、文化・軍事でヨーロッパを圧倒した「オスマン帝国」がなぜ解体したのか?という理由の分析。本書の結論は「『宗教』システム」が「『民族』システム」に敗北したということである。私の本書の理解は、現代人が「正常」だと考えているネイション=国民=民族システムは歴史的に見れば偏狭・拙陋・単純であり、それゆえに世界を席巻した(イスラム圏には現在でも、西欧ではほぼ殲滅されたコプト教会、ネトリウス派等が残っている)。いつかは分からないが「国民国家」システムにも終わりがくるということ。2016/09/24
コウジ
6
不勉強の僕としては挑戦的な読書でした、読了するのに長い時間を要しましたが、「読める時に読む」という姿勢を貫き漸く読了。当初はオスマン帝国の事って殆ど学校で習わなかったなという単純な思いから手に取ったのですが、本書の傾向は学術書の趣が多分にあって最初の50P程の「ネイションステイト・ナショナルステイト」等の定義付けする箇所が難解で苦労しました、読み進む内に分からないなりにも、所々、理解できる部分も増えて「不平等乍らも多宗教の共存、それなりの平和」等、現代の民族紛争の時代に通じる過程が読み取れる様になって2023/02/04
hiro
4
全編を通して,多くの宗教・民族がモザイク状に存在するにもかかわらず,不平等ではありながら共存していた社会に,西欧発のネイション・ステート・モデルが導入されることによる混乱が描かれている。現在の民族紛争の原因の考察に有用。ネイションを「国民国家」「民族国家」という異なる側面に分解し,オスマン帝国におけるナショナリズムの様相を捉えていくという叙述の仕方も勉強になった。2018/06/03