内容説明
聖なるものへの覚醒とはなにか。エロチシズムとはなにか。熱き情念に突き動かされながら、人間の思考のあり方を問い、その限界の彼方を指し示した人バタイユ。ヘーゲルを頂点とする西欧文明における理性の体系に対し、彼は「非―知」「好運」を看板に掲げて果敢に戦いを挑みつづけた。現代のヨーロッパはいまだ彼が投げかけた問いのなかにあるといえるだろう。そこにバタイユの思想を問う意味があるのだ。「死とエロチシズム」の思想家といわれて久しい彼の活動の全貌を新たな視点から明快に解き明かす、若い読者のための入門書。
目次
第1章 信仰と棄教(生涯と作品;ベル・エポックと父親 ほか)
第2章 聖なるものと政治(スペインからシュルレアリスムへ;『ドキュマン』時代の試み―低い唯物論 ほか)
第3章 極限へ(「力への意志」から「好運への意志」へ;「非―知の哲学」 ほか)
第4章 明晰性の時代(冷戦構造と核戦争―政治・経済の問題;文学の至高性 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
青蓮
95
バタイユ入門書と謳ってる割りには少し難解かもしれません(私の読解力の問題もあるけど)。バタイユの生い立ちや思想、著作を体系的にざっと解説した本。バタイユの「眼球譚」などの文学作品を先に読んでたので、彼のイメージとしては「変な人」という印象しかなかったけれど、本書を読むと明晰な頭脳を持った1人の思想家の姿が見えてきます。政治、経済、宗教、芸術と多岐に亘る彼の思想はとても興味深い。私にはハードルが高いけど、もっとバタイユの著作を読みたくなりました。少しずつ挑戦していきたいです。2016/03/26
nobi
52
異端児的思想家のイメージあったので、章扉で初めて見たバタイユの写真は意外だった。端正で貴族然とした風貌。梅毒から心身崩壊していった父親、カトリック入信、神秘主義への傾斜、棄教、性耽溺、マルキシズムへの傾斜…。二度の大戦と冷戦で世界は混乱している。その中、宗教でも理性でも主義でもなく聳え立つヘーゲルでも親近感を覚えていたニーチェでもない。理性の光及ばない言葉が揺らぎ始める地点まで踏み込んで行った求道者。端的に核心を突き理知的に論を展開する著者が次第に熱を帯びて、バタイユ通じて思考の枠組みの解体を迫ってくる。2017/03/19
ゆとにー
20
良書。多くの訳書も手がける研究者が、個人史、社会史、思想史を織り交ぜながらバタイユの思想の跛行をかみ砕いて解説していく。バタイユは、ニーチェのディオニュソス的な個の溶解の側面をさらに推し進め、死への接近を伴う非理性的で恍惚的な合一、つまり他への開かれや共同体の形成を志向した。そして形象化されようとするたびに嘲笑うかのごとくその覆いを剥ぎ取り、どこにも根底を持たず変貌し続ける強度の揺らめきや不定形さを露呈させ、そこに聖性を垣間見た。そうして西洋的な文脈の中から理性、科学、言語など西洋的な権力の内破を試みた。2019/08/28
、
20
バタイユの思想を彼の生涯に沿って解説するバタイユ入門書。陰鬱ゴシックなエロティシズムの思想家だと長らく思っていたけれどなんかイメージと違ってイケイケの人だった。思想家というより寧ろ彼は辛辣な批評家だったのかも。結局バタイユの主軸は内的体験で、あと他全部のものは内的体験に反するものへの批判で構成されている感じ。そこからなんでも出てくる。三章四章はバタイユのハイデガー、ニーチェ、ヘーゲル観をバタイユ本人の批評の引用を交えて明らかにし、またそれを踏まえバタイユとそれらの比較が行われておりかなり読み応えがあった。2014/11/11
無重力蜜柑
16
何だかんだで本があまり読めなくて久しぶりの人文書(新書だけれど)。バタイユは最近気になっている思想家で、今年中に『内的体験』を読みたいと思っている。その予習のつもり。もともとカトリックだったのが瞬間的な「陶酔」とか「恩寵」の感覚を追求しすぎて、教理的な信仰の向こう側に突き抜けたというのが面白い。そのテーマにしろ、死や破壊や非理性を中心とする人間観にしろ、自分とかなり「気が合う」思想家だ。連想するのはやはりニーチェだが、彼と比べると芸術家肌でより非道徳(≠不道徳)だろうか。2023/07/24