内容説明
混乱をきわめる二十世紀末の建築状況の背後には、建築というひとつの制度自体を否定し解体しようとする、抗しがたい時代のムーブメントがある。ここから救出されるべき建築とは一体何か。ゴシック、古典主義からポストモダニズムにいたる建築様式の変遷と背景にある思想の流れをたどりつつ、この困難な問いに答える、気鋭の建築家による入門書。
目次
第1章 建築の危機
第2章 建築とは何か
第3章 構築
第4章 構築と拡張
第5章 構築と自然
第6章 構築と主体
第7章 主観対客観
第8章 建築の解体
第9章 普遍の終焉
第10章 建築のモダニズム
著者等紹介
隈研吾[クマケンゴ]
1954年生まれ。東京大学工学部大学院修士課程修了。コロンビア大学建築・都市計画学科客員研究員などを経て、隈研吾建築都市設計事務所代表。人間と自然と技術との新しい関係を切り開く建築を提案(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ころこ
40
哲学の議論から始まり、驚きます。マルクスの上部構造・下部構造や物理的な構築物から一番遠い社会学の構築主義など、思想には建築の隠喩が溢れています。建築から入り思想的な問題意識に辿り着くアプローチと、思想から建築に至るアプローチの結節点になる意欲的な本です。気になるのは、滔々と書かれた文体です。モダニズムに躓いていない教科書的な語り口は言行不一致です。教科書的なものからの切断や、タイトルの『新・建築入門』の「新」に対する問題意識があって然るべきでしょう。他方で、4章以降の建築史は、基本的なことを理解するのに役2019/06/03
zirou1984
20
古代ギリシャから近代まで、西洋思想史の流れが建築といかに結び付いているかを解説し、そこで問われる概念について両方の分野でどのように扱われていたのかを辿っていく。その歴史的過程は建築が持つ具体性がいかに抽象的思考の豊かさであり、建築を語ることは哲学や宗教を語ることにもなるその奥深さを教えてくれる。特に、絵画において一点透視画法の視点が発明されることで世界が独立性を持ち、建築物から独立することができたという視点は目から鱗。その史観には留保すべき点もあるだろうが、建築について考える際何度も読み直したくなる良書。2018/05/20
nbhd
17
これは、んもう、すごい本。あまりの衝撃で、目次を書写して、内容をスケッチするなんて初めてのことだ。思想も建築も、ポストモダンまみれのボロボロになった94年の発行。<構築する欲望>を軸にして、古代の洞窟からモダン建築までを総括し、訣別を宣言した本。構築の原初形態は「垂直」とか(ストーンヘンジ)、植物を模した柱の装飾の起源は「征服してしまった自然への生贄」(ギリシャ建築)とか、たぶんこういう思考を「ラジカル」というのだろう。それがずっと続くから、ずっと感動しっぱなしだった。1年に1度は読みなおしたい本。2017/04/24
鬼束
6
建築には門外漢な私ですが、哲学史の流れとの連関において建築を考察していくという本書の試みは中々面白かった。ギリシャ古典主義建築の時代より純粋に幾何学的な外装の建築は試みられてきたわけであるが、そのような幾何学性は物質性の前に敢え無く実現を阻まれる。そこが絵画との大きな違いであり、紙の上で描かれ、企図されたものと、実際に立ち上がったものとの間の微妙な齟齬。このジレンマ故に建築はその歴史の中で何度も古典主義時代の幾何学建築へと回顧してしまうのだろう。本書では日本家屋についてあまり触れられていないのが残念。2013/12/28
ネムル
6
哲学史というパースペクティブによって、建築における物質性や主観と客観の問題がこれほどクリアになるのか、と大変楽しく読んだ。構築的なるものを逃れ得ない建築が、脱構築によって負わされた決定的なダメージを如何に解決しうるか。あまりに大きな難問をはらんだ良著。2009/09/15