内容説明
19世紀末イギリス南西部、マーロット村に住む美貌の少女テス。父は酒好き。母もまた愚かしく、一家はどうしようもなく貧しい。長女のテスは健気にも一生懸命働くが、父が「一家は貴族の血を引く」と聞き込んだ時から、運命が狂い始める。金持ちの同族から援助を得ようと、使いにやられるテス。嫌がるテスを、同族だから物乞いではない、と説得する両親。こうしてテスはダーバヴィル家を訪ね、使用人として奉公することに。そして迎える“宿命の男”アレックとの出会い。運命の皮肉を容赦なく描き、“無慈悲な偶然”の存在を浮彫りにして、20世紀文学の開幕を告げた問題作。全面新訳。
著者等紹介
ハーディ,トマス[ハーディ,トマス][Hardy,Thomas]
1840‐1928。小説家、詩人。イギリス南西部ドーチェスター近郊の農村に生まれる。ヴィクトリア朝リアリズム小説を大成すると共に、不条理な感覚や、象徴主義的、表現主義的な手法で、20世紀小説の先駆となった。近年は詩人としての評価も高まっている
井出弘之[イデヒロユキ]
1936年生まれ。東京都立大学名誉教授。英文学専攻
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
58
田園風景描写の美しさとは裏腹に、美貌の少女テスが運命に翻弄されて不幸になっていく話。牧師がどれほどの真剣さを込めて話をしたのか分からないが、それにすがらなければならないほどの貧しさにあった家族。テスは、あまりにも家族に忠実であろうとし過ぎたのだろうか。村に戻ってから、また新たな恋が始まったが、そうなると、過去の傷がテスを苦しめる。秘密を告白するかどうか葛藤するテスの心理描写が後半の見どころ。2017/02/13
Miyoshi Hirotaka
25
物語のヒロインは純粋無垢な若い美女。これは、英文学だけでなく各国文学の定番。さらに、ヒロインが寄って立つ境遇が脆弱で、その解決に選択の余地がない不条理が色を添える。世界は小さな偶然に支配され、その組合わせが無慈悲な偶然という試練になる。科学の世界では「バタフライ・エフェクト」と呼ばれ、「北京で蝶が羽ばたくとニューヨークで嵐が起きる」という例えで知られる。個々の人間が合理的と信じる選択や純粋な善意から起こす行動は運命を好転させるとは限らない。それどころか不条理となって、悪しき選択を誘い、運命を暗転させる。2021/04/27
昭和っ子
17
19世紀末イギリスの南西部、丘陵に囲まれ隔絶された谷間の村で、鄙にも稀な美少女が、家の守りの薄さゆえに、新興勢力の商家の放蕩息子から不名誉な扱いを受ける。深く傷つきながらも、身に秘めた生命力の赴くまま向かった新天地で、今度は理想の青年に巡り会うのに、過去の傷が彼女の愛情を留める。テスの逡巡のさ中にも深まっていく若い二人の恋心に、身悶えしながら読む。彼女の被った傷が生来の美貌に深みを与え、身分を超えた愛情を彼に呼び覚ますのに、その傷ゆえにこれからとびきり不幸な結末が待っているらしき下巻を読むのがツライっす!2018/11/01
noémi
9
もし牧師がお節介を焼かずに父親に「ダーバヴィル家」の秘密を教えなければ、テスの運命は変わっていただろうか。この時代のイギリスってなんか一定の観念に取りつかれてしまって頭が硬直している。テスの母親の娘がうまくいけば玉の輿に乗れると夢見るのも、仕方がないかとも思えるけど、つくづくとテスが哀れだ。そして、自分のせいでもないのに、女の業を背負ったまま、テスは牧師の息子であるエンジェル・クレアと結婚することに。やめときゃいいのに。そして、その晩・・・。ハーディの瑞々しい筆致が冴える。英国の牧歌的風景描写が美しい。2012/02/21
かつみす
8
イギリス南部、ウェセックスの農村で貧しい暮らしを営む一家の長女テスの、薄幸な運命。かつて威光のあったダーバヴィル家が先祖だと分かったことがきっかけで、テスはダーバヴィルの名をかたる堕落した男アレックの餌食になってしまう。やがて地元を離れて酪農の仕事に精を出すようになった彼女は、牧師の息子で世俗に身を投じたエンジェル・クレアに出会い、互いに恋に落ちる。だが心身を犯された過去を打ち明けられないテスは、エンジェルの求婚を頑として拒み続ける・・・。映画化されたものは観ていなくて、ほとんど予備知識なしで読み進めた。2022/12/25