内容説明
乱歩のエッセイ「怪談入門」は、幻想怪奇小説ファンには絶好のブックガイドである。その中から俊英ミステリ研究家が選び抜いた12篇。名作「猿の手」原典版新訳をはじめ、横溝正史のユーモラスな訳が冴える「専売特許大統領」、ホテルの同じ部屋で縊死者が続出するミステリ「蜘蛛」と、乱歩によるその変奏曲「目羅博士」他、ドイル「樽工場の怪」など個性的な作品がずらり。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
keroppi
67
【日本の夏は、やっぱり怪談】〈其の三・和洋折衷〉和洋折衷ということで、この本を読んでみた。乱歩が海外の怪談小説を解説する「怪談入門」と、それに出てくる怪談を集めたアンソロジー。いきなり、ゴーリーも選んでいたジェイコブス「猿の手」が登場する。やっぱりこれは傑作なのだ。それぞれの作品を乱歩の解説も読み返しつつ読むと、さらに面白い。横溝正史訳「専売特許大統領」は、怪談というよりユーモアSFっぽいが、こういう作品に出会えるのも嬉しい。最後には乱歩の作品もあるが、その前に着想を借用した「蜘蛛」があり、楽しめた。2020/08/22
kasim
34
巻頭に乱歩の「怪談入門」、巻末に「目羅博士」、そして間に「怪談入門」で言及された西洋の短編が11本挟まる構成。初めて読んだエーヴェルスの「蜘蛛」は面白く、「目羅博士」の元ネタであることはよく分かるし、一方廃墟のような都市や月のモチーフで奥行きを出す乱歩の工夫や上手さも際立つ。紛らわしいのは、この短篇群は必ずしも乱歩が激賞したものではなくランダムに選ばれていること。入手困難なテクストにも日の目を、という編者の気持ちも理解できるものの、いくつかの作品は弱いような気がする。2020/11/18
ニミッツクラス
32
【日本の夏は、やっぱり怪談】〈其の三・和洋折衷〉00年(平成12年)の税抜950円のちくま文庫初版。巻頭に乱歩(本人のため)の「怪談入門」を掲載し、そこで言及した洋物11編+乱歩の「目羅博士」を収録。「猿の手」以下数編は今では鉄板。「樽工場…」はドイルチックな話だと思っていたが、著者はまさにドイルだった(笑 「廃屋…」と「ザント夫人…」は冗長…手際良く煮るなり焼くなりコロ助ナリしても可。「…大統領」はほら男爵のノリ…しかも横溝訳だよ。巻尾「蜘蛛」と「目羅博士」は上手く抱き合わせて編者のGJ!★★★★☆☆2024/08/16
NAO
25
ジェイコブズの『猿の手』は、文句なしに怖い。願いをかなえてほしいと考えている者が想定するリスクと、実際に降りかかってくるリスクとの差が違い過ぎて、とにかく怖い。エーヴェルズの『蜘蛛』はわけの分からない不気味さだが、それを元ネタに違うジャンルの話にした江戸川乱歩の『目羅博士』もおもしろかった。2015/08/23
ワッピー
22
乱歩の「怪談入門」による分類と、そこで紹介された12の怪奇短篇。分類そのものも面白く、また紹介されている作家・作品も興味深い。やや時代が古いせいか、冗長に感じる作品はいくつもあったけれども、怪しき奇しき雰囲気をたっぷりと感じました。例外はダンセイニ「災いを交換する店」の、どうかすると笑劇(ファース)になってもおかしくない際どさ、アルデン「専売特許大統領」に至っては、SFとも、ギャグとも分類できるおかしさ。乱歩の「目羅博士」は、元となったエーヴェルス「蜘蛛」と並ぶことで、着眼点の相違が示されるサービスも。 2019/01/16