内容説明
ニューヨーク56番街の古いホテルに、かつての流行作家イェップがふらりと帰ってきた。借金に追われ、歯は痛み、執筆交渉はどんづまり。そんな人生の午後にも、ふわりと幸福なひとときは訪れる。旧友との憎まれ口。別れた妻につくるマティーニ。息子の好きなドジャースが勝ち、娘とつないだ手は暖かい。憂鬱だから、輝く。深い洞察とユーモアにみちたサローヤン後期の自伝的作品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きりぱい
6
ニューヨークの年季の入ったホテルにふらっと帰って来た作家のイェップ。仕事は思うようにいかず栄光は過去のもの、金もなく借金を抱えているのに、自分の書いたものは安売りしない。どんな偏屈親父かと思ったら、これがなかなかよくて。11歳の娘とつなぐ手が時折なにかに反応してギュッと力が入るのを感じたり、娘や息子、あるいは3人の会話にとてもなごむ。そして別れた妻とも、再会した昔なじみとも、大人同士の会話もいい。大きくドラマが動くわけではないけれど、中年の晴れ晴れとしない胸中をひととき癒してあたたかくもする話。2012/05/25
東堂冴
0
サローヤンほど、「特別ではない」ことを描ける作家はいないのではないかと、思った。それを愛することはきっと存外難しいだろうな、とも。2015/04/10
しーもあ
0
伊丹十三や岸田今日子が訳したのがあるが、稀代の人気作家だったわりにはサローヤンの本は少ない。本書は彼の自伝的小説で1955年のニューヨークが舞台。ジャズでいうとハードバップの萌芽のころだ。序盤は中年劇作家のイエップのクズっぷりにイライラさせられるが、後半のある日の午後の場面から俄然面白くなっていく。やはりサローヤンは息子や娘との会話や場面描写が抜群にうまい。2013/07/11
鼠
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身体も心もうまくいかない。愛する人がいるのは間違いないが、もっと愛してやるべきなのかもしれない。誰だって自分のことしか考えないから、どうやって他人に優しくするのか。そういうことを考えさせられた。2011/05/28
ミサゴン
0
やさしくて潔くて頑固で、サローヤンは大、大、大すき!!! もっと 読みたいです。2010/07/20