内容説明
時は南北戦争後。大義名分を失った武器マニア「大砲クラブ」の面々が途方もないことを思いつく。「月に砲弾を!」資金集めに誘致合戦、嫌がらせ等あれやこれやの末、巨大砲が完成する。そこへ、砲弾に乗り込もうという無鉄砲なフランス人が現れた―。この古典的SFが、これほどアイロニカルな文明批評だったとは。物理学、歴史から精神分析まで、該博な注が多層な読みを可能にし、まさに現代の物語として蘇らせる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tetchy
91
ヴェルヌが夢想した月へ行く方法は大型の大砲によって人を巨大な砲弾に乗せて月に向けて発射するという物。もうこの件だけで荒唐無稽な空想読物であると一蹴されるだろうが、それは早計。実は後に米ソが本格的に月着陸競争を繰り広げた当時の宇宙開発プロジェクトにこのヴェルヌの小説が実に参考になっていることが明らかになっている。実現可能性と荒唐無稽性を兼ね備えたハイブリッド小説。これは全てのSF小説に当て嵌まる事だが、その先駆者たるヴェルヌが月へ、いや宇宙への旅の方策を知力の限り盛込んだ彼の類稀なる想像力が結集した小説だ。2017/05/31
やいっち
66
ジュール・ヴェルヌの『月世界旅行―詳注版』を読んで感じたことの一つに、19世紀文学のいい意味での混沌さ、ごった煮性だった。メルヴィルの『白鯨』や『ピエール』などを読んだ時にも感じたことだが、小説が、突如、エッセイ調になったりしようが、書き手の視点が崩れて、文学手法に拘る現代人には??となったりしようが、一切お構いなしに作家が書き進めるその胃袋の大きさ、咀嚼力の凄さだ。(以下略) http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/2006/08/post_0980.html 2006/08/05
らん
21
「月世界へ行く」の後に読んでしまったけれど、大砲クラブ会長バービケインの演説から始まり月に行くまでを楽しんだ。3人が砲弾に乗る仲間となる過程が面白い。バービケインとニコルの論争に仲裁に加わるアルダンの場面が好き。詳注で心理面、砲弾の歴史、天文学、ヴェルヌについても詳しく書かれ読み応えがあります。シェイクスピアを愛読し読むために講義をサボった話に親しみが湧いた。挿絵入り木版画が味わい深く、寝起きボサボサ頭のアルダンにクスッとなり、アルダンの言葉と画に月に向かう砲弾列車での快適な旅に夢を膨らませてしまいます。2023/10/12
孔雀の本棚
5
買ったのは?(本屋?ネット?) kobo なぜ読もうと思った? 電子書籍デビューで何を読もうか?小学校以来のヴェルヌファン、絶版しているからと言って、本作を読まないわけにはいかない。 知りたいことは知れた? 再読するならどこ? 深堀したい内容は? その他自由にどうぞ 大人になって読むヴェルヌもいい。物理やら数学の話が理解できるので。日本では江戸の燻ってる時代だというのに、世界にはもう、月を目指す構想が生まれてたんだなと、どうしても時代背景に目が向く。戦争技術でも平和利用ができることを見事に証明してくれる。2021/01/27
lico
5
【メイ・ザ・フォース・ビー・ウィズ・ユー(SF&ファンタジー読書会)】創元SF文庫から出版されている『月世界へ行く』の前日譚にあたる話で、『月世界へ行く』で月へと向かう大砲を造るまでの過程が描かれている。とはいっても大体の問題はビシビシ解決していくので緊張感はあまりない(ここら辺はヴェルヌの小説に共通している気がする)。執筆当時には伝わったであろう風刺などを解説する大量の註釈がつけられており、人間としてのヴェルヌの一面を覗き見ることができるこれらの註釈が本編と同じくらいに面白かった。2016/07/05