内容説明
17歳で機を習い、30過ぎて染色をはじめた作家が、長い歳月のうちに、内面に深く潜めた思いの数々を綴る珠玉のエッセイ。“植物から色が抽出され、媒染されるのも、人間がさまざまの事象に出会い、苦しみを受け、自身の色に染めあげられていくのも、根源は一つであり、光の旅ではないだろうか。”色と糸と織と。丹念な手仕事で「わたし」が染めあげられていく。心に響くエッセイと鮮かな写真。
目次
草木の生命
色をいただく
樹幹の滴り
伊吹の刈安
藍の一生
桜の匂い
野草の音色
くちなしの黄
緑という色〔ほか〕
1 ~ 1件/全1件
- 評価
本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
146
まさしくタイトルがドンピシャな一冊でした。30過ぎてから染色を始められた作家さんが、長い時間の中でとにかく'色'について人生と重ね合わせて綴る、いや'奏でる'エッセイです。あまりにも文章が書き表す表現が美しすぎて、サラサラと読めてしまい、何度も何度もその場で読み返してしまいます。都度挟み込まれている写真も文章に負けないくらい美しく、ずっと手元に持っておきたい一冊となりました。どんなトキに読んでもかまいませんが、こうした一冊はきっとココロが少し波打ってるトキに読むとしっとりココロに響き、沁みるのでしょうね。2020/10/27
rico
106
草木がひそやかに育んだ色を見出し、手をかけ心をこめて糸を染め織り上げられた作品は、色が奏でる豊かな調べそのもの。一瞬の光に輝く自然の姿と志村さんの世界をとらえた写真、深く心に沁み込んでくる言葉。たどりついた場所に甘んじず、さらなる高みを目指して進もうとする力。ああ、これは・・・涙が出てきます。読み進めるのがもったいなくて、そして何度も読み返したくなって。季節は秋から冬へ。あでやかな紅葉から無彩色へ。でもその奥では春を待つ色が奏でられているのですね。この季節にこの一冊と出会えたことに、心から感謝いたします。2020/11/30
小梅
88
自然から頂いた色に染められ、植物は生き続ける。騒ついていた気持ちが落ち着きました。2015/01/27
文庫フリーク@灯れ松明の火
78
『一色一生』という本がある。私の数少ない個人的殿堂作品。植物染料を使った紬(つむぎ)織で人間国宝となられた染織作家・志村ふくみさん。5月27日(月)午後10時よりNHK総合『プロフェッショナル‐仕事の流儀』にて「いのちの色で糸を染める」88歳になられた染織家・志村ふくみさんが放送されると読み友さんより教えて頂き、この本を手にする。文庫本であるが、志村さんの染められた生絹(すずし)の糸・その色を頂いた草木の写真。素朴でありながら格調高く、鮮烈でありながら静謐な佇まいの写真をご覧頂けたなら!私の拙文など→続2013/05/24
アルピニア
76
志村さんのエッセイに井上隆雄さんの写真が添えられた珠玉の一冊。特に心に残ったのは、冒頭の「草木の生命」、「媒染のはなし」、「これからの着物」。「草木の生命」では、「染色の口伝」の一節が紹介されている。志村さんがたびたび仰る「木の精」「色をいただく」という思いの原点だと感じた。「これからの着物」では、日本人が伝統の衣食住の中でまっ先に捨ててしまった「着物」を致し方ないと突き放しながらも、決して滅びないだろうと述べている。無用の用、その考察は消えつつある文化全てに通じるものを感じ、とても興味深かった。→2020/05/29