内容説明
少女モイラは美しい悪魔だ。生まれ持った天使の美貌、無意識の媚態、皮膚から放つ香気。薔薇の蜜で男達を次々と溺れ死なせながら、彼女自身は無垢な子供であり続ける。この恐るべき可憐なけものが棲むのは、父親と二人の濃密な愛の部屋だ―。大正時代を背景に、宝石のような言葉で紡がれたロマネスク。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
307
一応は客観体で語られているが、視点人物は一貫して藻羅(モイラ)である。モイラという命名からただちに思い浮かぶのは、ギリシャ神話のモイラだろう。すなわち、運命を紡ぐ三人の女神である。北欧ゲルマン神話のノルンや、シェイクスピアの『マクベス』の冒頭に登場する、運命を告げる魔女たちへと連想が広がって行く。事実、モイラは他者の運命をも翻弄して行く(とりわけてはアレキサンドゥル)魔性の女(ファンム・ファタル)として描かれるばかりか、彼女自身がそれを強く自覚してもいる。彼女は、強烈なまでの自意識に裏打ちされた⇒2025/03/16
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
158
熱帯植物の温室。纏つく草いきれにむせぶ密室で、愛を貪るための生きものとして私をそだてたのはお父さまでした。フォークよりも重たいものは持たなくていいよとやさしく笑い、男の肉片をひらりと口に差し与えるその手。パァパと呼ぶと蜜を滴らすの。今日の私の獲物は誰かしら。私の魅力に悶えかなしむ美しい瞳がいいわ。手ずから差し出して。今日咲きだしたばかりの薔薇の花だけむしって湯に散らしてね。愛を差し出したら私の赤い水着をむしっていいよ。からだを存分貪ってこころを差し出しなさい。美しいものだけが私にかしずいて愛をうたえ。2020/02/12
青蓮
92
モイラは純新無垢な美しい悪魔だ。彼女を取り巻く人全てが魔に魅入られた如く、彼女に惹き付けられる。モイラが相手にサディスティックな感情、欲情を抱かせるのは彼女の幼い振る舞いと、それに似合わぬ官能の香気だ。男達を狂わせ、女達もまた彼女の妖しいまでの美貌に嫉妬せずにはいられない。モイラは唯、父である林作だけを愛していた。そして林作もまたモイラだけを必要としていた。閉じた二人だけの愛の園。甘い蜜に満たされたその場所は他者にとっては毒の園だ。足を踏み入れれば死んでしまう、毒の薔薇園。甘い色香が匂い立つような作品。2019/08/03
りりす
30
少女の持つ美を前に、あらゆる道徳、常識、平穏が崩壊する。知恵も手管もなく、ただ美しさだけで成立する少女の存在は、太宰治『女生徒』の、「美しさに、内容なんてあってたまるものか。純粋の美しさとは、いつも無意味で、無道徳だ」という文章で簡潔に説明出来ると思う。多分それは、自分磨きのような健気でせせこましい努力に対するアンチテーゼ的存在。魔性の反面、何でも言うなりに成りそうなのは、父との恋人の様な関係の為だと思う。父娘の近親相姦という、何処までも自分に都合のいい女の存在は、アダムから出でて妻になったイブに似てる。2015/02/19
松本直哉
27
十代の少女の驕慢と怠惰、花の香りに似た体の匂い、それが周囲の男たちを擒にして堕落させてゆく力を持つことに気づいているのかどうか、本人は恬然としている様子はサロメ的なファムファタルの典型か。サロメは養父さえその魔力で翻弄するのに対して、こちらのモイラの父との親密さはほとんど近親姦に近づき、その親密さが他の男性たちの嫉妬の火に油を注ぐ。父林作は名前からして著者の実父林太郎を彷彿させるが、その鷹揚さ、結婚して家を去っても、いつかは自分のもとに戻ることを疑わない自信が印象的。三島由紀夫の激賞の理由がわかる気がする2025/01/20
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