内容説明
「ええ、憎んでるの」メリーは叫んだ。「たしかに憎んでいることよ」「それでいながら、あの男との結婚を承諾してもいるんだ」老人はいった。「ああ、そうよ」メリーはいった。老人・マーティンをはじめ、人の心を操って目的を達しようとするベックスニフ、無思慮なその娘メリーなど、きわ立った性格の登場人物たちの暗闘の果てに…。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
100
一財産築くことを夢見てアメリカへ渡った主人公は厳しい現実と病に苦悩し、精神的に成長する。「利己主義が自分の胸の中にあり、それを根こそぎ引き抜いてしまわなければならぬ」ことを彼に自覚させる旅の相棒マークの存在が頼もしい。著者の苦い経験が題材になってアメリカが辛辣に風刺される中、「利他」精神で道中を陽気に照らしている。利己心を離れた愛情はいつだって嬉しい。並行する英国編でも、いよいよ悪役らしい存在感が出てきた建築士や、会話に架空の友人を登場させる看護婦(風貌もかなり強烈)など人物造形の本領が発揮された印象だ。2018/03/12
ケイ
93
ディケンズ中期の作品。思わず吹き出してしまう描写や微笑ましいところ、そして貧乏ゆえに死んでしまう人々(特に子供たち)や悪徳が栄えるところ(一時的にかもしれないが)があり、ピクウィックと二都物語の要素のどちらもがある。さて、ここではいい人の化けの皮がはがれてきた。本人は自分は立派で尊敬されるべきと考えているから、たちが悪い。嫌な男に迫られても、断れず泣いている女性を見ると、時代なのかもしれないが、なぜはっきりと拒絶できないのに苛立たしく思う。舞台がアメリカの箇所は、トムやハックを読んでいるような気になった。2015/12/15
kasim
39
自由を口実に大言壮語、儲け至上主義、暴力を肯定と、アメリカ批判はますます手厳しい。一方イギリスではペックスニフ家を核に、複数のプロットが錯綜する。Pは老マーティンに取り入りメアリーに危機が。P家の二人の娘の明暗は分かれたようでやがて逆転。トム・ピンチは真実に目覚めロンドンへ。ただの馬鹿息子のようだったジョーナスの邪悪さが目につきだしたところで、彼の上をいく悪人ティッグが再登場。老耄でも主人にだけ反応するチャフィの哀しい可笑しさ、ギャンプ夫人のグロテスクはいかにもディケンズ。2021/07/30
ゆーかり
17
19~37章まで。チャリティ、ジョーナス、トム、それぞれ思いもよらず人生が変わっていく。アメリカでのマーティン。そこはまるでジャングルかどこか未開の地のよう。開拓と言うと西部のイメージがあるけれど、この様だったのだろうか。ディケンズ渡米後に書かかれた作品なので実体験も反映されているかと思われるが、人々に対しては批判的。ベイリー、ポル、マークなどはディケンズらしい人物。マーク、困難の多い人生に於いてマークの様な存在は貴重だ。今の所謎めいた人物たちや「俺様」だったマーティンの今後に注目。下巻へ。2018/03/10
フリウリ
9
若いマーティンと、召使として雇われた後、同僚に昇格するマーク・タップリ―の二人組は、チャンスを求めてアメリカに渡ります。アメリカでの苦闘と脱出、イギリスでのペックスニフやティッグら悪人の暗躍といった物語が続くなか、若いマーティンがマークの人柄おかげで「改心」する、トム・ピンチがベックスニフの悪に気づいて自分の道を切り開こうとする、などのビルドゥングスロマン的な要素も含まれ、読み応え十分。とてもおもしろいと思います。1844年刊。92024/10/04
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