内容説明
実業界を引退したゆたかな紳士ピクウィック氏は、素朴な人柄で、人間愛に満ちた人である。彼は行く先々で人を助け、悪をこらしめようと力をつくす。しかし、人がよすぎて、かえって失敗ばかり…。明るく楽しい笑いの底に人間回復の願いを託す、ディケンズ最初の長篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
absinthe
195
これがデビュー作とは、ディケンズ恐るべし。人物造形の巧みさに驚愕。話は小さなエピソード連続で短編集のような構成。ミッションクリア型で次へ進む。暫く前の登場人物がたまに再登場したりする。持ち上がる問題は決闘あり結婚詐欺ありと山あり谷ありでユーモアといっても笑えないものもあるが、ピクウィック氏のお人よしさ加減が深刻さを和らげる。当時のイギリスの町の様子などもわかって面白い。2019/06/06
ケイ
95
ディケンズ24歳での処女長編作。いわゆるディケンズ的な社会を見る鋭い視線や弱者の描写は、ここでは見られない。いわば、ディケンズ版のパンタグリュエル物語、あるいはドンキホーテ。ピクウィック氏を長とするピクウィック・クラブの四人のメンバーがあちこちを旅して引き起こす愉快な騒動劇だ。楽しく読めると思ったら、当時のイギリスでは爆発的に売れたそうだ。個人的には、シリアスなディケンズが好みだけれど。2015/06/23
扉のこちら側
85
2016年94冊め。【120-1/G1000】『若草物語』の4姉妹が作中で「ピクウィックごっこ」をして遊んでいたり、赤毛のアンにも出てきたりと、子どもの頃からずっと気になっていた1冊。英国版『東海道中膝栗毛』とも言われる、当時ハリーポッター級の大ヒットだったというのも頷けるおもしろさ。ピクウィック氏と女性に目がないタップマン氏、詩をあいするスノッドグラース氏、自称スポーツ万能のウィンクル氏らによる、「人生で起こる風変わりで興味深い現象について探求する」クラブ活動の話。中巻へ続く。2016/02/13
のっち♬
68
実業界を引退したピクウィック氏は旅先での見聞を報告するクラブの会長をつとめるが、その溢れる人間愛と善意のために至る所で滑稽な事件に巻き込まれる。序盤は特に行き当たりばったりな筋だが、決闘沙汰や結婚詐欺で大騒動と、ユーモラスな演出で読み手を惹きつける。ここにサムが従僕として加わると話は一気に面白くなり、世事に疎い主人公をフォローするその機知に富んだ言動や軽妙な掛け合いは痛快無比。まさにこの瞬間、『ボズはロンドンを牛耳った』のである。数多くの登場人物の生き生きとした造形も、著者の想像力の豊かさを物語っている。2018/02/07
syota
32
英国版東海道中膝栗毛という説明が言い得て妙。明るく底意のない正真正銘のユーモア小説で、権力者や偽善者に対する風刺というようなひねった要素は感じられない。長編とはいっても一貫したプロットがあるわけではなく、エピソードをつなげた形なので、一気読みさせる迫力にはいささか欠ける。エピソード単位で少しずつ読み進める方が楽しめるかも。[G1000]2016/07/18