内容説明
「善に対して真剣になれず、美しき悪業に対してのみ真剣になれるような、奇態な性癖を己に生みつけたのは誰なのだ」―対象の善悪を問わず美しいものへの惑溺に情熱を燃やし尽くした谷崎。大正期の谷崎文学に注目してきた編者種村氏が、表題作ほか7篇で再構成した珠玉のアンソロジー。いま新しく、谷崎文学の再発見。
著者等紹介
谷崎潤一郎[タニザキジュンイチロウ]
明治19(1886)年、東京日本橋に生まれる。旧制府立一中、第一高等学校を経て東京帝大国文科に入学するも授業料滞納のため中退。明治43年、小山内薫、和辻哲郎らと「新思潮」(第二次)を創刊、「刺青」「麒麟」などを発表。『三田文学』誌上で永井荷風に激賞され、華々しく文壇にデビューする。昭和40年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
87
現代の犯罪小説が薄く感じるほど、スリリングさがありました。谷崎の大正期に書いた作品を集めた短編集です。恐怖や汚辱によって作り上げられた世界は悪の華があり、物事に対する善悪など無関係に美しいと感じるものを突き詰めていったという印象でした。直接的に様々な欲望が描かれ、まさに欲望の負の連鎖へと巻き込まれていくようです。とりあえず終わるように見えても、実は無限なのかもしれず、そこに冷酷な目が注がれることで完成されたものがあると感じました。谷崎文学の新たな一面を見たようです。2016/10/01
yn1951jp
40
種村の編集と解説「巨人と侏儒」が秀逸。大正期に悪の花を咲かせたマイナー・ポエットとしての小谷崎の眼でみた谷崎世界。ボードレールらが阿片やハシシュによったのに対して小谷崎は苦痛に酩酊し、恐怖や汚物によって劇場的に美を構成する。悪女は聖女の、美女は人形の、美食は悪食の、恐怖は快楽の、巨人が侏儒の、それぞれが分身…江戸戯作者が儒教的制度に悪女像を対置したように、小谷崎は聖女であるかのような悪女幻想を描いてみせた。小宇宙が大宇宙と同一化…味覚もまた大宇宙へのみちびき…小谷崎は大谷崎の一つのあらわれだという。2015/11/04
マッピー
17
それほど谷崎潤一郎作品を読んできたわけではないけれど、明らかにこれは今まで読んできた谷崎とは全然違う。『美食倶楽部』を読みたくてこの本を借りたはずなんだけど、一番無理だったのが『美食倶楽部』でした。全然おいしそうじゃないし、何なら気持ち悪い。海原雄山に「こんなものが美食といえるか!この馬鹿者が!」と怒鳴りつけてほしい。おどろおどろしい作品もあるのだけれど、からりと乾いた文体がどうも日本っぽくない。どちらかというとポーとかスティーヴンソン。『友田と松永の話』は、絶対スティーヴンソンだわ。2024/02/26
彩
10
読んだのは『美食倶楽部』のみで、かつ読んだのも全集からなのですが、タイトル的にわかりやすいのでこちらでレビューを。これまた薦められて(*´ω`*)最初は黒烏龍茶のCMみたいな、太ったオジサマの朗らかなコメディみたいだったのですが。谷崎ですもんね、そうですよね。料理がどうのこうのというか、エロさしかなくなってましたヽ(´ー`)ノ読んでてムズムズする…(*´Д`)今年は谷崎没後50年。たくさん読もう、たくさん集めよう。2015/01/24
hitsuji023
9
「白昼鬼語」と「美食倶楽部」が良かった。ミステリアスな雰囲気に味がある。美食倶楽部はよくこんな変態的なことを考えられるなと思う。嫌悪感を感じて読めない人もいるだろう。何か別世界の住人を覗き見るような、そんな感じがする物語だった。2024/08/19
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