内容説明
コロンビアのノーベル賞作家ガルシア=マルケスの異色の短篇集。“大人のための残酷な童話”として書かれたといわれる6つの短篇と中篇「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」を収める。
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- 評価
本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
336
『百年の孤独』と『族長の秋』の間に書かれた作品集で、表題作を含めて7つの短篇を収録する。いずれも温帯湿潤の日本の風土からは限りなく遠い、太陽に照りつけられ乾燥した風に吹きさらされた風土の物語だ。そこは人間の感情の在り処からもまた"異国"だ。篇中でもっとも印象的なのは、冒頭の「大きな翼のある、ひどく年取った男」だろう。いわゆる魔術的リアリズムの横溢した作品だ。また、小説としての充実度からすれば、やはり表題作「エレンディラ」か。2013/09/29
匠
204
熱風の吹く中、砂の上を歩く孤独感、生温かな死臭。マルケスはまだ2冊しか読んでないのだが、残酷で強いラテン独特の血の熱さと暑い空気感だけでなく、生々しい生と死を身近に感じて痺れた。大人のための残酷童話として書かれた6つの短篇と表題作である中篇。やはり「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」がこのタイトルそのまま心に残る。緑の血やエレンディラの強さの底に沈んでる悲しみはもちろん、ウリセスもなかなかに不憫。グロテスクなのに美しく感じる、思えばそれは人間とその生そのものかもしれない。2014/07/14
ケイ
141
本を閉じて想うのは、砂漠の孤独さと海の冷たさ、薔薇の香り。その薔薇は、棘はなく、熟して腐る前のような芳香を放っている。『無垢なエレンディラ…』炎はエレンディラに不幸をもたらすが、その前からエレンディラは不幸だ。祖母の呪縛にすでにかかっていて、逃げ出せないのだ。あの時に湯をかけてやれば、ウリセスのところに行けただろうに。不幸な美しい恋人たち。砂漠の上でベッドに繋がれた裸のエレンディラは、祖母や行列をつくる男たちの罪を、太陽の下で衆目に晒す。『奇跡の行商人、善人のブラマカン』カインとアベルのようだと思った。2014/07/14
nobi
117
自ら見た夢を膨らませたような話からなる短編集。理不尽な暴力も殺人も、その予感と成り行きから来る切迫感もここでは影を潜めている。長編のそんな重苦しさから解放されて、解放されたくて?マルケスは思いっきり羽を伸ばしているよう。風景は荒んでいて登場人物は大概みすぼらしい。一見しがない地上の世界は、だけどどこか温かくて、そこにちょっとシニカルで奇想の産物が現れる。年老いた天使、水死人、幽霊船…。真夏の夜の夢の如し。中編の表題作はやや趣きを異にして、意地悪婆婆と孫娘の掛け合いを軸に進む話は少し残酷な昔話のようだった。2018/07/29
kana
116
砂漠で死んだ人間は天国でなく海へ行くのだそうです。年老いた天使、幽霊船、薔薇の香りが漂う海、世にも美しい水死人など、乾ききった大地での苦しく悲惨な現実からふわりと飛躍するように鮮やかに描かれる幻想的な描写にうっとり。『予告された殺人の記録』は恐ろしい気持ちが先立ちましたが、本書はとても好みの1冊でした。解説で私の好きなケルトの妖精が引き合いに出されていたのが嬉しく、確かにどこの国でもささやかな出来事に神話的な要素を付与するという手法で物語が編まれていて、私はその想像からの創造の世界に忽ち心を奪われます。2014/03/26
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