内容説明
英国留学時代を題材にした「倫敦塔」「カーライル博物館」ほかいわゆる初期浪漫的短篇7篇に加え、松山の教員時代の体験をもとに、天真爛漫な正義派江戸っ子教師の活躍を描いて、根強い人気をもつ青春小説「坊っちゃん」を収録する。小説家として地歩をかためつつあった時代の漱石の文学世界を提供する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
64
美文調の作品が、小説家としての礎を築いたと言ってもいいでしょう。異色作と感じたのは『坊ちゃん』。天真爛漫な江戸っ子である坊ちゃんが活躍しますが、あだ名をつけてきた教師と同じように世間知らずのところがあるのだなと思わされました。登場人物の個性も見え隠れして面白いです。漱石の文学界での世界観を作り出したと言ってもいいでしょう。2020/05/19
けやき
49
「倫敦塔」、「カーライル博物館」、「幻影の盾」、「琴のそら音」、「一夜」、「薤露行」、「趣味の遺伝」、「坊っちゃん」。「坊っちゃん」のみ既読。でも「坊っちゃん」もこんな話だったんだと思った。マドンナの出番はあまりなかったのね。夏目漱石って留学したイギリスの話の短編をいくつか書いてたんだと知る。アーサー王物語とかね。2020/06/16
抹茶モナカ
21
漱石の初期の代表作『坊っちゃん』他所収。『倫敦塔』、『幻影の盾』といった美文調の作品が前半に収録されていて、美しい文章を味わえるのだけれど、どうも、筋が頭に入らなくて、困った。最後に来て、『坊っちゃん』に入ると、読みやすくて、楽しかった。漱石の美文調の作品は、個人的に苦手かもしれない。『坊っちゃん』は、笑いと怒りの小説で、読んでいて、訳もないのに怒りの感情が起こったり、ちょっと感染させるところもありつつ、笑えるので良い。2015/12/07
tokko
16
「幻影の盾」や「薤露行」「一夜」など美文調の小説が並ぶが、正直中世の騎士を題材にした物語くらいにしか理解しづらい。こういう小説の中に並ぶと「坊ちゃん」が非常に読みやすく面白い。テンポも良く筋が整っていて読んでいてスカッとする。あと「琴のそら音」「趣味の遺伝」など、ついつい引き込まれる短編も多いです。漱石は短編もうまいんですね。2017/01/19
あくび虫
6
英国ネタと『一夜』はもちゃつきますが、基本は取っつきやすい。そしてどこか少女趣味…というのに語弊があればロマンティック…或いは重度の妄想癖。『幻影の盾』や『薤露行』は叙事詩の味わいで、特に後者の幽玄さはため息もの。お気に入りは『琴のそら音』…こういう男性を愛されるものとして(しかもちゃんといじらしく)書くところが全く夢見る少女的です。それでいて『坊ちゃん』のようにカラっとした作品も書くのだから面白い。――どの登場人物も「死ぬのは阿呆だ」ってスタンスなのが気持ちいい。てっきり文豪はみんな死にたがるのかと。2022/08/21