出版社内容情報
『日清戦史』草稿の不都合な事実はなぜ隠蔽されたか。『日露戦史』でもなされた戦史改竄が遺した禍根と、『坂の上の雲』で形成された日本人の歴史観を問い直す。
内容説明
歴史の謎を追うジャーナリストである著者は官修『日清戦史』の草稿を読み解き、不都合な事実を隱蔽、改竄して陸軍が戦史を編纂していた証拠を見つけ出した。隠蔽は戦争の根幹部分に及び、編纂方針はその後の戦史にも踏襲され、戦争の実態は国民の目から遠ざけられた。『坂の上の雲』が描いた日露戦争の姿に多くの日本人が驚いたのもそのためであった。隠された事実とは何だったのか。埋もれていた歴史を掘り起こし百二十余年の歳月を超え日清戦争の実像に迫り、日本人の歴史観のあり方を問いなおす。
目次
第1章 「日清戦史決定草案」
第2章 追加部隊の派遣
第3章 平壌を目指す
第4章 平壌の攻防
第5章 掲げられた白旗の阜
第6章 『日露戦史』の編纂
第7章 陸軍にとっての戦史
著者等紹介
渡辺延志[ワタナベノブユキ]
1955年生まれ。ジャーナリスト。2018年まで朝日新聞社に記者として勤務し、青森市の三内丸山遺跡の出現、中国・西安における遣唐使の墓誌の発見、千葉市の加曽利貝塚の再評価などの報道を手がけた。著書に『歴史認識 日韓の溝―分かり合えないのはなぜか』(ちくま新書、第二七回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
107
太平洋戦争における軍部の敗戦や失策隠蔽は有名だが、その淵源は半世紀前の日清戦争にあった。公刊戦史とその草稿を比較検討し、統制に従わない司令官や兵站の破綻、平壌総攻撃での錯誤など数々の失敗を明治陸軍が改竄し、英雄的な勝利のみを国民に宣伝していた実状を明らかにする。こうした考え方は日露戦争から太平洋戦争まで受け継がれ、都合の悪い事実には蓋をする軍部の宿痾となった。最初の草稿で事実を正確に記したため軍上層部に疎まれた東條英教の息子が、歴史歪曲と暴走の果てに自滅した陸軍と大日本帝国の清算人を務めたのは何の因縁か。2022/11/07
kawa
35
日清・日露の公刊戦史と、その原典資料を比較検討することで公刊戦史の欺瞞性を明らかにした労作。日露戦後の軍部劣化が昭和の悲劇を招いたとする説明がもっぱら。しかし、本書によると中央の指示に従わない現地部隊の独断的行動、指揮官の個人的野望・思惑による無謀な作戦、人命・兵站軽視の部隊運用等は既に日清戦から現れており、それらを公刊戦史からオミットしたことが後の悲劇につながった由。なるほどの感。日露旅順戦も日清の経験を盲信し、要塞攻略に対する甚だしい準備不足のなか単純な肉弾戦を繰り返し夥しい 人的被害を招いたと指摘。2022/10/21
K.H.
13
これは良書だった。気をつけるべきは「日清・日露戦争」ではなく「日清・日露戦争『史』」の真実だということ。日清戦争の公刊された戦記は、当初の草稿にさまざまな歪曲を加えて編集されたものであることが、新しい史料を基に説明される。早くもこの時代に、「皇軍」の不都合となることや有力将官の失敗は隠蔽されるという、のちの軍部の病弊が生まれていたことになる。それはまた、希望的観測にすがり、失敗から学ぼうとしない体質の始まりでもあった。この分野の研究の進展が待たれる。2024/01/05
aeg55
5
現代の日本における歴史修正はどこから始まったのか、わかってくる本。当初は後々の糧とする為日清戦争の戦争史を忠実に書き残していた、ということには驚いた。しかしながら、戦争で生き残った、偉い将官に都合が悪い事柄は記述を省いていった事が現代日本の歴史修正の起点となった。結果的に日清戦争の戦史としては、連戦連勝楽勝の戦争であった事となり、これを先例として始めた日露戦争でにおいて大失態を起こす。日露戦争では、鼻から都合の悪い事は戦史に書かれず、1945年の敗戦焦土化に直結していった。2022/12/12
kana0202
5
一次資料にあたりながら日清戦争の真実を丹念に追い求める試み。一次資料の引用が多いのでやや読みづらいが、歴史がつくられていく様を見る。東條英機の父の話が興味深かった。2022/07/24