出版社内容情報
戦前、人々はなぜ総動員体制に抗えなかったのか。当時の「聖典」たる『國體の本義』を読み解き、戦後に「アメリカ大権」をも招来した日本人の「無意識」を問う。
内容説明
戦前、多くの日本人が「国体」思想に飲み込まれ、戦争に動員されていった。なぜ日本人は、この流れに抗えなかったのか?総力戦に敗北した後、天皇は連合国軍最高司令官に「従属」する形となった。実際にはアメリカ大権となっているにもかかわらず、鋭敏な知識人ですら、それを直視できずにいるのはなぜか?戦時期に教育の場で広く読まれ、国民に深甚な影響を与えた『國體の本義』の解読をとおして、戦前・戦後を貫流する日本人の精神の「無意識」を問う。ふたたび日本が内閉しようとしている今、来し方行く末を考えるに際し、必読の書!
目次
序論 『國體の本義』の恐ろしさ
第1部 『國體の本義』を読む(天壌無窮の神勅;天皇;臣民;国史;国土と国民;祭祀と道徳;学問と科学;政治・経済・軍事;結語;国体のゆくえ)
第2部 天皇親政とアメリカ大権(なぜ天皇親政説なのか;天皇の近代;アメリカ大権;三島と吉本と国体と;大東亜共栄圏の残照)
結論
著者等紹介
橋爪大三郎[ハシズメダイサブロウ]
1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。社会学者。東京工業大学名誉教授、大学院大学至善館教授。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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trazom
54
「國體の本義」の丁寧な解読を通じて、日本の国体論が論じられる。橋爪先生は「國體の本義」を「洗脳そのものである」と断言する。確かに、文部省が主導する見事な洗脳だと感じた。本来、天皇機関説で成立している大日本帝国憲法の条文を「現人神の規定」だと読み替え、忠孝一如、臣民、醇化などの概念を駆使して、天皇親政説に国民を誘導する。そして、戦後の日本は、明治以来の国体の枠を維持したまま「アメリカ親政」になっただけなのか…。日本の独自性と世界の普遍性との間でこの国のあり方を考えるために、貴重な示唆が得られる一冊である。2020/07/01
ナリボー
5
8/10 大戦前後の国体がどのように形成されていったのか、筆者らしく簡潔で平易に書かれていて終始関心を持って読み進められた。特に天皇機関説と天皇親政説の違いやそれぞれの立場、実際に起きたことをどう整理するか、丁寧にわかりやすく素晴らしい解説だと思った。2021/10/04
がんぞ
4
日本が名目的にも君主制であったのは数十年に過ぎない。神道が「宗教を超えた信仰」とされ、神社が国家保護され靖国神社が設立され対外戦争に備えたのも/「臣民」も帝国憲法で初出の造語で、儒教で「臣」は王に仕えるが「民」は政に関わることはない。国民に服従の義務を課した/佐藤優『日本国家の神髄』を批判し、2.26事件で葬られた皇道派が残存して「国體明徴運動」の指導書『神髄』となり、帝国を破滅させた、とする。一転して史上まれな占領の成功は、天皇の大権がGHQに移行したからで、日本国憲法より日米安保条約は両国に重要とする2022/01/01
老齢症状進行中
1
橋爪さんの本は、読んでいなかったですが、大澤さんとの対談本の面白さにひかれてこの本も読みました。戦前の日本の狂気を理解するための最良の素晴らしい本だと思います。ただタイトルが残念です。戦前日本の狂気ー国体を読み解くとかもう少し魅力的なタイトルが望まれます。読後に疑問に思ったことは、国体の本義の制作主体のこと。表面的には文部省ですが、官僚が考えたことなのだろうか?この悪魔の書の発案者とその意図が知りたいなと思いました。一億玉砕に結びつく必殺イデオロギーは、当初の意図を超えて、一人歩きしてしまったのだろうか?2022/02/20
とらちゃん
1
全てを太平洋戦争に向かわせるために文部省が編纂した戦前の聖典である「國體の本義」。皇国主義の拠り所となり、曲芸のようなロジックと天皇親政の一大家族国家という情への訴えで、世界に通じる普遍性と日本の優れた特殊性を感じさせ、人々の献身を促す見事な洗脳手段であったことがよく理解できた。以前訪れた知覧特攻平和会館で涙ながらに見た特攻隊員の遺書や特攻前日の写真。死の前日の何とも晴れやかな表情に違和感を覚えたが、なるほどと腑に落ちた。こんな悲劇を繰り返さないよう今後の日本が描くべき世界観の大切さを思わずにはいられない2021/03/03