内容説明
自分探しを越えて、真の自己分析へ―フロム思想の新展開を告げる隠された未邦訳の遺稿。フロム、21世紀への遺言。
目次
第1部 「存在」の技について
第2部 「存在」を阻むもの
第3部 「存在」へのステップ
第4部 セラピーを超えた精神分析
第5部 「所有」をめぐって
第6部 「所有」から良き「存在」へ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みゃーこ
75
実主義という磐石の岩の上にのみ、生や自分あるいは他者に対する信仰は立てられるべきものである。とありました。その現実主義とは、悪を見抜く能力のこと。イリュージョンの中に幸せや生きる価値や目的を求めていると必ず毒を含んだ結果が待っている。イリュージョン…人間の欲求を満たすためのまやかしは商業として果てしなく成立している。社会システムが要求する限り個人がどこまでその中で真の生を生きられることが出来るのかわからない。悪を見抜く現実主義であると同時に、馬鹿でいることのほうが逆に賢い生き方ではないかと思った。2013/03/26
壱萬参仟縁
15
1989年初出。haveなのか、beなのか?(11頁) 「気づかないほうが幸せ?」(104頁~)というのはある。あるいは、知らない方が幸せ、というのもあるだろう。下手に知ってしまったがゆえに、嫌な思いをする場合も人生にはある。知が不幸になるケースもあるのだ。持たざるものの存在。持てるものの存在。存在に軽重はないと思える。この著者は自由からの逃走、でも有名。わたくしは、自由のようでいて、不自由なものからの逃走を図ったことがある。それは、長続きしないことからの逃走であった。逃げても存在は残る。思い出として。2013/12/15
テツ
14
薄っぺらい自己啓発書のような根拠のない安易な安らぎや万能感を与えてくれるわけではなく、真に「よりよく生きる」というためにはどのようにするべきなのかと考えさせてくれる。幸福とか生きる目的なんていうものは全て幻想に過ぎないとは思うけれど、きっとその幻想を見出す先にも当たり外れがある。一度始めてしまった(始めさせられてしまった)自分という存在を引き受けてしまった以上よりよく在りたいとは思うので、そうした自分に至るために改めてそのための手段を模索していきたい。2021/09/02
Koichiro Minematsu
13
より良く生きるとは、ナルシシズムと利己性の牢獄の棚を引き下げる意志と決心、断続する不安を受け入れる勇気が、well-being経験を生み出していく。2017/11/11
さえきかずひこ
10
『生きるということ』(1976年)から割愛された原稿をまとめたもの。訳者も指摘するが同書と併せて読むのが良い。現代人の過度な所有への執着を病的と断じ、そのことを批判し乗り越える為にフロイト理論を吟味しつつ、マルクスを参照し、より良く生きる(Well-being)ために思索の手がかりを与えるもの。要はまじめな読者が、真摯に自己の生を捉え直す為の促しの書である。世に蔓延る自己啓発書のハウトゥー性が皆無で、啓蒙性があるのが独創的ではないだろうか。現代労働批判は一部陳腐だが、45年前の原稿なのでその点は仕方ない。2021/03/29