内容説明
「李徴=人間性欠如説」はいつ、なぜ広まったのか?高校教科書の最高掲載回数を誇る中島敦「山月記」が、「国民教材」の地位を獲得していくまでの秘められたドラマを解き明かしつつ、現在の国語教育が抱える問題を鮮やかにあぶり出す。付録として「学習の手引き」調査結果、主題一覧、授業実践のヒント20選を収録。
目次
第1章 小説「山月記」の掲載
第2章 教材「山月記」の誕生
第3章 「山月記」の授業―増淵恒吉の「山月記報告」を読む
第4章 「現代国語」と「山月記」―主題・作者の意図への読解指導
第5章 国民教材「山月記」の誕生―切り捨てるものと追究し続けるもの
第6章 「山月記」の音声言語とナショナリズム
終章 問題解決の糸口
著者等紹介
佐野幹[サノミキ]
1976年、神奈川県横浜市に生まれる。立命館大学文学部文学科卒。高校教諭を経たのち、横浜国立大学大学院教育学研究科修了。釜石高等学校教諭を経て、現在、岩手県立一関第二高等学校教諭、東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科(博士課程)在籍。全国大学国語教育学会、長編の会に所属(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぽん
5
すでに学校でならった教材で、何度か読み返したこともあるのに、「古潭」のこととか全然知らんかったし。教材史としての見方は新鮮だった。山月記というより、学校の「国語」の授業そのものが狭い見方、あるいは特定の思想価値観に染められてきたんだなと見つめなおせた。教育改革、教科書検定で「小説」がニュースの俎上にあげられるけど、教材観を歴史的に示してくれたのはいいな2022/02/20
Hiroki Nishizumi
4
興味深く読めた。山月記が古潭の一篇であることを知らなかった。そして、そのように分離されて文字と言葉の物語ではなく、国語の教材らしく虎になった李徴の人間性や生き方の読み解きとして使われて来たとは、少々衝撃だった。2020/10/13
剛田剛
3
「なぜこの作品が国語教科書に採用されたか」は教育史において非常に有効な問いなのだけれど、本書は正直言って期待外れである。戦前の国定教科書との連続性、悪書追放運動と良書選定運動の影響、「お説教」としての機能の期待、それらはタイトルの問いへのいちおうの解答にはなるかもしれないが、そんな凡庸な解答を今さら示したからといって何になるのだ。2020/01/21
u
3
テクストの読みにきまった「答え」があるなんておかしい。でも入試 (国家) が「答え」を求める以上、それを (設定し) 教えないわけにもいかない……という国語教育のジレンマについて教育史や文学史、社会史などの多岐に渡る領域から考察した本。「主題・作者の意図」に顕著な教授型授業からの脱却を図る上でとても参考になった。もっとも、実践報告にあった「山月記カルタ」や「オリジナル週刊誌」(週刊誌のインタビュー形式で李徴の心理理解) なんかは生徒の興味を引こうと躍起になるあまり、迷走している感が否めないが……2016/05/27
おたおた
3
山月記が高校の授業で扱われたとき、「欠けるところ」の部分で人間性の欠落と言われたのがいつまでたっても腑に落ちなかった。だからこの本を見付けたとき思わず手に取ったのだが、今まで気にしてこなかった検定教科書や良書を巡る話がとても面白い。親しい人に教育関係者がいるが、良書、悪書を選別し読ませたいという願望は少なからず持っているように思う。本当にそれで良いのだろうか?教育者に為ろうという友人に読んで貰いたい一冊。2016/05/06