内容説明
満洲の春は一日で初夏に変身する。五族共和・王道楽土を理念として、昭和七年成立した満洲国。満鉄勤務の夫について渡満、妻として母として力強く生きて来た百賀の歌人が、今満洲・ノモンハンを想う。
目次
秋桜と呼びて愛でにし垂乳根の母を偲べりコスモス咲けば
子規よりは一つ上ぞと記したる伯父奇北の句思ひ出づるも
洗ひたる肌着を棹に干ししまま母は逝きたり其の日の午後に
どろ柳朝に芽ぐみ夕まぐれ青葉風吹きしハルピンの初夏
凍てつきしハルピン市街に鳴り響くクリスマスの鐘思ひ出づるも
モンゴルはオボの祭の頃ならむ芍薬の野を招ばれ行きにし
夜半さめてふと思ひ出づノモンハンに幾百の兵看取りせし日を
寒い北風吹いたとておぢけるやうな子どもぢゃないよまんしうそだちのわたしたち
国敗れ安東神社炎上の九月十七日また巡り来る
安東は一月おくれの春なりき花散りをるか夫の墳墓に〔ほか〕
著者等紹介
葛畑美千代[クズハタミチヨ]
明治37年埼玉県行田市(武州北埼玉郡持田村)に福田庫三郎の長女として生まれる。大正13年4月葛畑秀夫と結婚。昭和9年3月満洲鉄道勤務の夫とともに渡満。昭和20年8月満洲安東(現丹東)で終戦を迎える。昭和21年9月19日八路軍の罪状なき人民裁判の判決後、夫秀夫は銃殺される。10歳になる息子をかかえ、三十八度線を越え、北朝鮮経由で帰国。戦後は行田市において文具・雑貨店を経営。息子の成人を機に本格的に短歌を始める。時すでに還暦を過ぎていたが、朝日・読売歌壇に多数入選。その歌は満洲からの引揚げ者の心を和ませ、たくさんの人に感動を与えてきた。昭和55年に発行された「昭和万葉集」の中に葛畑短歌が収められる。平成16年5月20日百歳の誕生日を迎える。老人保健施設国立あおやぎ苑在住。現在に至る
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