内容説明
著者が偶然手にした150年前の醜聞文書―有力家系間の対立抗争をめぐるこの醜聞は、20世紀末の今日まで、事件当事者の子孫の人間関係に、暗い影を投げ続ける事件であった。書き記された事実と、語られる事実との相違に時に戸惑いながらも、著者はエジプトの村社会の日常性と、その背後に潜むアラブの思考様式の解明に挑む。「私とあなたの関係」という身近なミクロ世界のなかで起こったスキャンダルを通して、近代のエジプトの社会システムを考察する。
目次
プロローグ なぜこの本が書かれたのか
第1部 アブー・スィネータ村
第2部 文書「アブー・スィネータ村の醜聞」
第3部 伝承「アブー・スィネータ村の醜聞」
第4部 「醜聞」にみるアブー・スィネータ村
第5部 アブー・スィネータ村の150年
エピローグ 「醜聞」にみる村社会の「日常性」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Cebecibaşı
1
文書館でたまたま見つけた村方の文書を持ち帰って読んでみたら、予想以上に深そうだということに気づいたところから始まった加藤先生の一連の研究をまとめたもの。実際に村に行ってみたら存命中の村の住民たちが文書に出てくる醜聞を知っており、それを根気よく聴き取りしていった結果の研究書で、歴史学の手法と人類学の手法が出会う非常に稀有な研究だろう。そして仮にこの文書が今見つかったとしてももうすでにこの話は村の中でも風化してしまっているかもしれないという点で非常にタイミングが良かったと言えるだろう。2020/05/02