出版社内容情報
前著『未来の戦死に向き合うためのノート』で衝撃を与えた、知覧特攻記念館での研修などによる、特攻の自己啓発的受容の拡大。本書は、『永遠の0』(百田尚樹)、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(汐見夏衛)など近年ベストセラー化する大衆小説を含む、比較的メジャーな特攻文学を幅広く参照しながら、既存の歴史認識の枠組みを無視した感動や継承の先にある近未来を予測しつつ、それらとうまく付き合う道筋を探る。
内容説明
「泣ける」特攻物語の隆盛から、日本社会の変容を描く、今までにない戦争文学論。
目次
はじめに―特攻の物語のどこで号泣するのか?
第1章 遺書から文学へ―感動の再現性の探究
第2章 継承のメディアとしての特攻文学
第3章 感動のメディアとしての特攻文学
第4章 死んだ仲間と生き残り―鶴田浩二と戦中世代の情念
補章 否定と両立する包摂へ―『未来の戦死に向き合うためのノート』をめぐる対話
おわりに―「同期の桜」と「春よ、来い」を聴きながら
著者等紹介
井上義和[イノウエヨシカズ]
1973年長野県松本市生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程退学。京都大学助手、関西国際大学を経て、帝京大学共通教育センター教授。専門は教育社会学、歴史社会学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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itchie
4
戦中世代の戦後を知るうえで第4章の鶴田浩二論は非常に興味深かった。70年代、特攻隊の生き残りが本当にそういう役でテレビドラマに出るということが可能だったのだ。仲間への責任や負い目などの複雑な感情、情念がそこにはある。右派に利用されかねない鶴田浩二=吉岡司令補という存在と、脚本家・山田太一の綱引き。昔から特攻の受容に自己啓発的な要素はあっただろうが、戦中派が不在になったことで、体験者の葛藤や後ろめたさを描かずに作品が作れるようになってしまった。前著同様、「未来の戦死」の議論は先走りすぎている感が拭えず。2024/08/31