出版社内容情報
本書は、著者W・ギーゲリッヒの「仏教的心理学と西洋的心理学」という論考と、ユング派分家ロブ・ヘンダーソンがギーゲリッヒに対して行ったインタビュー記録(「問いそれ自体を愛する」)の二つから成っている。
「仏教的心理学と西洋的心理学」は、二つの心理学を単に比較検討しているものでも、また、他方を比較対象としてもう一方の心理学を論じているものでもない。二つの異なる心の動きが衝突することを通じて、そこから新たな魂の学としての心理学が立ち上がってくることを目指して書かれたものである。
著者は、本書の「日本語版への序文」の中で、真の自己認識というものは「相手」(=他者)との徹底的な対決なしには不可能であり、知性や心理学の知識だけでは不十分であると述べている。なぜ、「自己」を知るために「他者」が必要なのだろうか? なぜ心的現実は、個人という観点からだけでは満足に理解できないのだろうか?
「自分は何であり、何ではないのか」という感覚を研ぎ澄ますためには、互いの存在を深く認め合いながらも、他者と徹底的に対決することが必要であり、その関係性の中でしか明確化は得られないと著者は考える。ユングは、分析家と患者の関係や、治療という仕事は、本質的に弁証法的プロセスであると考えていた。つまり治療というのは、相談室にいる二人の心の対話や相互作用そのものにあり、二つの異なる心が出会い、真摯に向き合い、互いの存在によって自身のありようを深く揺り動かされるとき、初めて両者の間に魂と呼ばれるものが感じられ、そこに「治療」と呼ばれるものが成立するのだという。本論が、単に二つの心理学や文化論の比較検討ではないことの所以でもあろう。
本書の後半、「問いそれ自体を愛する」では、ユングとの出会いからユング派分析家になった経緯、彼の臨床実践、また「無意識」「魂」「影」について、さらには「神について?」「インターネット」「ユング派の分析の未来」など現代の心の本質について著者がどう考えているのかが率直な言葉で語られて興味深い。著作が難解で知られるギーゲリッヒ理解のための貴重な資料でもある。
内容説明
異なる両者が真摯に向き合いぶつかり合う中に新しい魂の学が立ち現れる。ユングはなぜ、「自己」を理解するためには他者が必要であると言ったのだろうか?その解明の緒口を与えてくれる。
目次
仏教的心理学と西洋的心理学―心理学の自己明確化に向けて(地理学の誘惑;非同時的なものの同時性の原理、あるいは歴史的差異;否定や亀裂対途切れることのない連続;限定的否定対一括的否定 ほか)
問いそれ自体を愛する(ユングとの出会い;無意識;夢はどこから来るのか;魂 ほか)
著者等紹介
ギーゲリッヒ,ヴォルフガング[ギーゲリッヒ,ヴォルフガング] [Giegerich,Wolfgang]
1942年生まれ。ニュージャージー州立大学ドイツ文学の教授職を辞して心理学へ転じ、1976年よりユング派分析家。現代の分析心理学の世界的な顕学。エラノス会議の講演者の一人であり、ドイツ語の著作では原爆やアニムスや殺害のテーマを扱ったものが公刊されている
猪股剛[イノマタツヨシ]
1969年生、ユング派分析家、臨床心理士/公認心理士。帝塚山学院大学准教授
宮澤淳滋[ミヤザワジュンジ]
1978年生まれ。すずのきメンタルケアクリニック。相模女子大学非常勤講師。上智大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程満期退学。臨床心理士、公認心理師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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