出版社内容情報
【はじめに】より
本書は、子どものために書かれた、子どもについての本です。同時に、喪失や悲しみを抱えた子どもに手をさしのべたいと考えるおとなのために書かれた、おとなについての本でもあります。母親であり、養母であり、また、教師、セラピスト、広い意味での教育者を務めてきた私は、子どもの人生における感受性の強い時期に、心を開いて話し合い、感情を表現し、役に立つリソースを利用することが重要だと感じています。私の目標は、親、教師、宗教関係者、ヘルスケアの専門家の力になれるようなガイドブックを作り、子どもの喪失と悲しみの問題に、情報を隠さず、心を開いて、愛情に満ちた方法で対処できるように助け、これらの問題に関連して生じがちな怖れや拒絶の感情を少しでも和らげることなのです。
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この本の各章では、頭と心と一般常識を同時に働かせて、子どもたちをケアできる環境を作るための提案をしています。
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この本は読みやすさに留意しています。どのページからでも読みはじめることができ、有益な情報を見つけることができます。写真を使うことで、子どもの世界を思い浮かべ、おとながその世界に入りやすいようになっています。読者の皆さんは、快活な表情の子どもの写真が多いことに驚かれるかもしれません。これらの写真は、子どもたちの生活の状況や内に秘めた感情が実際にはどのようなものであろうと、子どもたちがいかに多くの時間を遊びや空想の世界に費やしているかを物語っています。子どもは元気に遊んでいても、じつは悲しみにくれていることもあるのです。おとなと同じように、子どもだって逃避したり、拒んだりします。それでも子どもが悲しみを乗り越えるための方法は、遊ぶことなのです。
私は、実話を使って典型的な状況を説明することにしました。それぞれの話の後には、子どもがそれぞれの状況を理解させ、変化に対応する手助けをするための方法について実用的なアイデアを提案する項目を設けています。悲しみに備える方法、利用できるリソースや支援活動などがそこにはあります。このシンプルでありながら体系化された方法は、幅広い状況に対処するうえで有益です。この基本的なアイデアを変更したり、さらに発展させたりしながら、子どもの生活の中で起こる新しい課題に対応させることができます。
「生きること・失うこと――悲しみに直面した子どもを助けるガイド」というタイトルにしたのには多くの理由があります。私たちは死が人生の重要な要素であることに気づく必要がある一方で、子どもにとっては死は体験する多くの喪失のうちのひとつの要素にすぎません。使えなくなったおもちゃ、折れた脚、壊れた家、傷ついた心、どんな喪失であっても子どもは嘆き悲しみます。引越しや離婚、病気は、嘆きという行為の糸に織り込まれる問題であり、ペット、友だち、近所の人、兄弟姉妹、親、祖父母といった大好きな人の死と同列に存在しています。加えて今日の世界では、同じように子どもの日常生活に影響を及ぼしうる暴力、虐待、殺人、自殺の問題にも取り組む必要があります。
第1章では、21世紀にいたるまでの統計を示すことで、喪失と悲しみについて理解していただきます。ここでは、子ども時代の喪失の分類について深く掘り下げ、現代の子どもにとっての将来の喪失と保護の喪失に重点を置いています。また、子どもを助けるための方法を提案します。その後の章では第1章の基礎にある概念をより深く理解していただきます。
第2章では、子どもをケアする私たちおとなが作り上げ、子どもに影響を与えてきた喪失と悲しみにまつわる神話を検討します。そのような神話の存在を認め、それを事実と置き換える必要があるのです。
第3章では、悲しみに取り組むための4つの心の課題を説明し、それぞれの課題を理解するための資料を提示します。子どもに反応するときの限定的な決まり文句に代わる、より適切な言葉を紹介します。子どもの誕生から青年期までの、理解の発達の過程を眺め、思い出を作る方法を提案します。飼っていたペットのスターが死んでしまった話から、現実の状況に対処する実際的なアイデアを示します。
悲しみや喪失に関連する子どもの行動を見極めることは、子どもが必要としていることに積極的に応えるための第一のステップです。第4章ではこれについて論じ、その後で、家庭や学校、遊びの場で使える、悲しみを解決する方法を示します。たとえば、物語を語る、手紙を書く、子どもらしい質問をする、演じる、絵を描く、音楽、工作、その他の投影法です。これらの方法は子どもの悲しみに近づき、悲しみの作業の幅を広げます。
第5章では、子どもが死にゆく人に別れを告げたいとき、何を言ったらよいのかという疑問に対して答えを示します。ひとりの母親の目を通して、私たちは学び、その母親の考えを広げて、他の喪失や悲しみの問題に対応できる一般的な形に発展させていきます。ここではお葬式や葬儀場での別れに際して、さよならを言う方法も示します。
第6章は、特に教育者のために書かれた章で、教育者や生徒が日常的に直面する課題について述べています。専門家に紹介するためのガイドラインや子どもの喪失体験のチェックリストも用意しました。教室での教育の機会を利用した、実践的な方法も説明します。
第7章では、「地域の支援チーム」での取り組みについて述べています。親に対する教育、学校での子どもの擁護、子どもに対する教育、専門的なトレーニング、多文化の環境に対する配慮について説明し、このようなチームでの取り組みのモデルを示します。
「まえがき」で述べたように、本書では新しいミレアムにおける子どもの悲しみの作業の枠組みを示しており、新しい情報も追加しています。
また子どもの作文や絵を紹介しながら、悲しみを解決する方法を提示します。現在問題となっている子ども時代の2種類の喪失――おとなの世界からの保護の喪失と将来の喪失――を組み入れることで、今日と明日の子どもたちの悲しみの作業の舞台を提供します。
拒絶、怖れ、恥、そして適切な役割モデルの欠如が多くのおとなの人生を形作っています。そのため、特に喪失や悲しみといったデリケートな問題では、無邪気に気取らずオープンに子どもと接することを、しばしば困難にしています。しかしながら、子どもは、つねに変化しつづける環境にさらされており、おとなが役割モデルを示すことを求めています。親、教育者、他のケアの専門家は、悲しみのプロセスにある子どもを助ける責任があるのです。本書は役割モデルとして使えるように考えられており、写真や子どもの作品、実話、簡単な方法やリソースを用いることによって、私たちは子どもの心に焦点を当て、そこに近づいていくことができるでしょう。この本によって、子どもの内的世界を尊重し、誠意をもってその心の中に入っていけるようになることを望んでいます。
ここには、非常に多くの悲しみを抱えた子どもたちが登場します。彼らはあまりに多くの困難と多種多様な問題を抱えていて、彼らとともに生き、仕事をする私たちは、自分たちが彼らの人生に何の影響も及ぼせないのではないかという無力感に打ちのめされることがあります。今日そして未来に生きる傷ついた子どもは驚くほど多く、私たちの行動が悲しみにくれる子どもの果てしない海に違いをもたらすことができるのだろうかと考えてしまうかもしれません。
「共通の理解と新たな責任感に基づいて、家庭や隣近所、学校、職場、地域社会、まわりの世界にあらためて目を向けることで生まれる私たちのユニークな『悲しむ子どもを地域ぐるみで助けるチーム』にみんなが参加し、周囲のおたなも子どもも助け合い、思いやりをもって、悲しみの海に漂うすべての子どもを助ける仕事に全員が今すぐ取り組むこと、それが私の願いであり、祈りなのです」――リンダ・ゴールドマン
内容説明
子どものためのやさしいグリーフワーク。つらい経験のただ中にいる子どものために、傷つき悲しんでいる子どものために、私たちにできることは何か?親・教育者・セラピスト・医者・そのほか子どものケアに関わるすべての人たちに。
目次
第1章 子どもたちの喪失と悲しみ
第2章 悲しみの神話
第3章 悲しみを乗り越える4つの心理学的課題
第4章 悲しみを乗り越える方法
第5章 さよならを言うための準備
第6章 教育者のために
第7章 地域での助け合い
著者等紹介
ゴールドマン,リンダ[ゴールドマン,リンダ][Goldman,Linda]
公立小学校の教員およびカウンセラーとして20年間活動を続ける。娘ジェニファーの死の体験から独自の悲しみの活動を生み出す。現在はワシントン近郊で有資格の悲しみセラピスト、悲しみの教育者として活躍し、また、ジョンズ・ホプキンス大学、メリーランド福祉大学などで教鞭をとっている
天貝由美子[アマガイユミコ]
筑波大学大学院心理学研究科修了。博士(心理学)。臨床心理士。日本学術振興会特別研究員、大阪教育大学助手、講師を経て、現在、千葉大学助教授
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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