内容説明
兵役拒否者は、独善的な臆病者なのか?未曾有の総力戦を背景に、史上初の徴兵制実施に踏み切ったイギリス。その導入と運用の経緯をたどりながら、良心的兵役拒否者たちの葛藤を描き出す。
目次
はじめに―『イギリス人の第一の責務』
第1章 徴兵制の導入(ナショナル・サーヴィス同盟;志願入隊制から徴兵制へ;兵役法案)
第2章 徴兵制の運用と良心的兵役拒否(兵役免除審査局;良心的兵役拒否者たち;審査と裁定;陸軍における処遇;内務省スキーム;絶対拒否者の獄中生活)
第3章 兵役拒否の論理と実践―反徴兵制フェローシップ(反徴兵制フェローシップ;兵役法成立以前;兵役法への対応;反徴兵制をいかに語るか;終戦後)
むすびに代えて―戦間期との接続
著者等紹介
小関隆[コセキタカシ]
1960年生まれ。一橋大学社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、京都大学人文科学研究所准教授。社会学博士。専攻はイギリス・アイルランド近現代史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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テツ
17
戦争が起きることで一番大きい悲劇って一般民衆の自由が根こそぎ奪われていくことだと思う。戦時下でなくても人は予想もしない形で理不尽に死んでいくんだから。死んでしまうから戦争が嫌なんじゃない。国家なんてどうでもいいものが立てた御旗の下に整列しなければならなくなる不自由さが嫌なんだ。徴兵と良心的兵役拒否。自由に選べるように勘違いしているその二つだけれど、実際は社会の空気という凄まじい圧力により自由は限りなく狭められていた。こんなアホな時代が二度と訪れないよう願う。2018/05/27
MUNEKAZ
5
WWⅠにおけるイギリスでの徴兵制の施行と、それに反対する良心的徴兵拒否者の葛藤をまとめた一冊。長く志願制の軍隊を維持し、自由主義を国の誇りとしてきたイギリスだけに、政府も徴兵制のあり方について一枚岩でないのは印象的。また徴兵拒否者も同じく愛国的な自由主義者として、ある種の独善的・殉教者的な態度から行動を起こしているため、結局、大きな支持を得られる運動にならなかったと自戒しているのも興味深い。短い内容だが、戦争と自由について考えさせられる一冊であった。2017/10/26
dongame6
5
戦前は徴兵制への組織的反抗そのものが考えられず、戦後は徴兵制に縁の無かった日本人にとって、この本のWW1における英国の「良心的兵役拒否者」達の存在は非常に興味深かった。その信条は様々であっても、戦争に熱狂する人々の中で戦争への荷担を拒む個人を繋ぐ組織が存在した事そのものが大変面白かった。そして彼らが味わった孤独と、また彼らが陥った「孤高を気取る故に周囲と隔絶し、その影響力の及ぼす範囲を狭めた」という自戒も、大戦の勝利を周囲と共に喜べず懊悩し、戦後厭戦的になる英国で再評価されるという皮肉も強く印象に残った2014/03/27
とく
1
第一次世界大戦の勃発により、初めて徴兵を実施した英国で良心的兵役拒否を行った人々と、運動について解説する。多くの国民がある程度の負担を許容する雰囲気だった中、彼らは社会的孤立を深めていっただけでなく、戦後は戦勝の喜びを国民と共有出来なかったことを後悔し、ナチスの台頭と共に『徴兵制やむなし』と転向していくという悲劇が語られる。志願制では高学歴、熟練工など『意識の高い人々』が兵役に志願し戦死していったことで『国民の負担の平等』の為に徴兵が許容されたという事実も現代日本の読者に多くの示唆をもたらすだろう。 2017/09/15
写楽逸道
1
読む前は、兵役を拒否する。これ自体ありえることなのか?という疑問があった。良心的兵役拒否の言葉は知りつつも。この本ではその背景にはイギリスのデモクラシーや伝統、宗教があったことが語られる。戦争という差し迫った危機の中、社会的蔑視や拘留などの不当な扱いなどの問題はありつつも、兵役を拒否するということが真面目に堂々と語られ主張され、国家からある程度の配慮を得られたという事実は、イギリスの民主主義というものが本物であることを示してるように思えた。2014/04/22