内容説明
指輪三部作の舞台となる壮大な物語世界を構築したトールキン。しかしその物語世界も、かれが生涯をかけて創造した神話的宇宙の一部にすぎなかった。最初期稿から草稿の変遷を綿密に考証することで、トールキン神話成立の軌跡をたどる。
目次
序論 トールキン批評の変遷
第1部 方法論(『樹と木の葉』における〈準創造〉の概念;作品成立史から見た準創造の作用)
第2部 神話学(『シルマリリオン』の書誌学;『シルマリリオン』のシンボリズム)
第3部 解釈学(中期以降の作品に見る〈不死性〉の問題;指輪と物語;ゴルムの変貌―『ホビット』第2版改訂に関して;サムワイズ親方の知ったこと;指輪三部作におけるラグナロク的英雄像)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
サアベドラ
8
トールキンの物語世界を扱った論文集。日本のトールキンに関する研究は雑誌レベルならいくつかあるものの、本になってるのはおそらくいまのところこれが唯一。トールキンの手紙や未決定稿を材料に、彼が物語世界をどのように発展させていったのかを考察する。本書の問題は、HoMEの刊行途中(4巻ぐらいまで)で出た本なので、それ以降に刊行されたトールキンの草稿を研究材料に使えていないこと。だから最近の研究から見ると疑問に思う点がいくつかある。楽しむだけならばいいが、本格的なトールキン研究に使おうと思うとちょっとキツイ。2013/01/16
isfahan
4
すばらしい。トールキン世界で重要な「フェアリエ(妖精世界)」概念やエルフがどうして不死なのかというトールキン神話世界の根幹に関わる謎が次々と解き明かされる。エルフはこの世界(アルダ)と本質的に一致する存在、決して「自然」に逆らわない存在なために、不死。対して、生まれながら「自然=世界」と一体化できない人間は、この世界には短期間しか存在を許されず「死に」この世界を超えた場所へと去らなければならない。指輪物語では「自然(フェアリエ)」の象徴たる「指輪」が滅び、エルフが去り人間とフェアリエを結ぶ道は失われる。2012/12/08
Myrmidon
1
自分は浅い指輪ファンだが、楽しめた。やっぱりトールキン先生の思考法は細部に拘る設定マニアな感じでオタク的だなぁと再認識。なんつーか、モビルスーツのノズルの形状について云々しちゃう感じの。神話を「生きる」ことで活力を~とゆー話はTRPGルーンクエストのファンである自分にはビンビン分かる話であった。2013/03/29