内容説明
修道院の集団ヒステリー・悪魔祓いと神父の火刑をめぐり、嫉妬と欲望、王権と新旧教会の相克、集団心理と超自然現象など歴史と人間の究明を目差す大作。史実にもとづく歴史小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
らぱん
50
間違いなく大作ではある。300頁超の細かい文字の二段組で文体は硬く寄り道が多く苦戦した。 17世紀フランスで起きた衝撃的な事件を題材にした歴史小説で、参考資料の紹介とその解説があり、合間に再現ドラマが挟まり、文学作品が引用され、冷徹で皮肉な口調の高い知性による考察がある。 事件としてドラマチックなのは前半で、内的な無意識が肉体に及ぼす影響や個人の感情が周囲に及ぼす心理のからくりなどが描かれるのだが、考察の山場はむしろ地味な後半にあり、自己超越について著者の神秘主義なども窺え、その論理は面白い。↓2020/02/21
こばまり
50
集団ヒステリーの歴史的代名詞、ルーダンの悪魔とは一体何であったのか。ひいては流動的な社会の本質を突いた力作です。“喜劇は観るものだが、悲劇は参加するもの”等、シビれる名言も満載。それにつけても哀れなのは火刑に処せられたグランディエ。知的な美丈夫で虚栄心が強くて好色で浅はかで。収められた肖像画はヒュー・ジャックマンに見えなくもない。奇しくも名前もウルヴァンだ。ボッシュを配した情緒不安定な表紙をお見せできないのが残念です。過去に上巻で投げ出したミシュレの『魔女』も読まねば。2015/06/21
文句有蔵
10
興味深い本だった。安寧な時には「神様のお陰様」、そうでない時は「悪魔のせい」。つまり神への信仰は悪魔信仰と表裏一体を為している。と、宗教心のない私は読んだ。最も興味深かったのは「悪魔との契約書」である。修道院という場所に於ける破廉恥な狂騒を「悪魔の仕業」にしなければならなかったのは、個人の心根の弱さではなく、教会であったという事実。それは結局彼らにとって宗教が、「寄付によって成立する商売」であることの証しとなっている。また蛮勇を隠さぬ点で、ウルバンこそが性善説の実践者であったのだと思えば皮肉的。2015/07/05
そのじつ
10
尼さんに悪魔を取り憑かせたのはセクシーな説教師。その栄光と破滅の軌跡。圧倒的実証を並べて、ひとの本質、社会の本質を浮き彫りにしてゆく様は、日本の著名な民俗学者(柳田国男・南方熊楠etc)を思い起こし、エピローグで述べられる巨視的世界観にも、大いに心揺さぶられました。名著。2013/05/07
大津正
2
悪魔というものはなんであるのか? 実在した人物と実在した事件を基に語られる人間の業☆ この事件は後に「尼僧ヨアンナ」にも描かれる弧とになるが、どれだけ高名な生き方をしたとしても所詮人間。抱く欲望は誰とも変わらない。 そしてその抱く欲望の中にこそ悪魔は存在するのだと言うことを語った名所☆読み終わった後の気持ちは胸くそ悪くなるが、これが人間であるのだという説得力を他のどの本よりも雄弁に語っている☆
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