内容説明
舞台に秘められた男女の謎―妖しく華やかな幻想ミステリー。降りしきる薔薇の花びらに埋もれて死ぬことを夢見た劇団員(「薔薇忌」)、濃密な淫夢に日常を侵される歌舞伎小道具屋の娘(「紅地獄」)、スター歌手の再起に賭ける芸能プロデューサー(「化鳥」)…舞台芸能に生きる男女が織りなす世界を、幻想的な筆致で描いた珠玉の短編集。著者の独創性を世に知らしめた柴田錬三郎賞受賞作。新たに書き下ろした「あとがき」を収録。
著者等紹介
皆川博子[ミナガワヒロコ]
1930年生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞、その後ミステリー・幻想小説・歴史小説・時代小説などジャンルを超えて創作を続ける。85年『壁・旅芝居殺人事件』で日本推理作家協会賞、86年『恋紅』で直木賞、90年『薔薇忌』で柴田錬三郎賞、98年『死の泉』で吉川英治文学賞、2012年『開かせていただき光栄です』で本格ミステリ大賞を受賞。13年にはその功績が認められ日本ミステリー文学大賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あも
95
皆川女史は化け物だと思う。端正な文章力、知性と教養を感じる豊かな語彙から産み出されるのは、理性とは対極にある本能にも似た情念だ。テレビや映画、スクリーンの向こうよりもっと生身の「舞台」に生きる人達を主役とした短編集。売れない役者、伝統芸能の小物師など、スポットライトの更に裏側の。芸術に身を捧げることは信仰に似る。それも、どこまでも墜ちていく邪教への。決して届かないものへ向かい、身を焦がすエネルギイ。腐れ朽ちていくものから目が離せないのは何故だろう。どこまでも耽美に香る爛熟の美。またしても著者へ頭を垂れる。2018/09/14
aquamarine
79
舞台にまつわる幻想短編集。全編通じて感じるのは、ぞわぞわと這い上がる恐怖といじらしいほどの美しさ。ラストに幻想小説ならではの強烈な結末が待っていたりするのも魂を揺さぶられます。一話ごとにどっぷりつかって、一編読み終わるごとに読み返したりして、読了まで何日もかけてしまいました。好みは「紅地獄」。紅の剥げがあんなにエロチックとは!「化粧坂」「化鳥」も後を引きます。自分が自分でないものになる舞台の世界は別の世界と重なっていてもおかしくないのかもしれません。皆川さんの耽美な世界を堪能しました。2017/04/04
勇波
71
自分にとって読書は「現実逃避」です。日常を忘れ物語にのめり込めるのなら漫画でも新聞でも何でもいいと思ってます。その中で皆川作品は手離せないものになってしまそうです★2014/11/23
アッシュ姉
69
読友さんの書評が素晴らしく、とても気になっていた皆川博子さん初読み。何かに心を奪われた者の行く末は…。妖艶な雰囲気に酔いしれていると、思わぬ展開が待ち受けており、毎回ハッとさせられゾクッとした。濃密な淫夢に囚われた娘の「紅地獄」と、芝居小屋の妖しい少年との思い出を回想する「化粧板」、元スター歌手の再起を賭けた舞台「化身」が特に印象的。幻想小説というよりも幻想文学といった方がしっくりくる。私の乏しい表現力では世界観を伝えきれないのが無念。少し難しいと感じたところもあり、もっと修行してから再読したい。2015/08/20
Rin
64
舞台に魅せられ、携わる人々のなんとも魅惑的で幻想的な短編集。そしてやはり皆川さんの作品らしく淫靡な雰囲気も漂っている。でもそれは、人が心の裡に抱えて、気付いていなかったり、見ない振りをしたり押し殺していたものが、少し浮き上がってきたり、溢れてきたゆえのものなのかもしれない。抑えきれずに、溢れてきたものが見せる耽美的な空気は独特。彼や彼女が犯したものが明らかにされる時、また違う物語が生まれてくる。暗く背徳的な幻想物語たちに絡め盗られそうになる。なかでも「化粧坂」「化鳥」「翡翠忌」に魅せられました。2019/11/30