内容説明
深川の小料理屋に勤める長屋住まいのなみ。両親を亡くしてから親代わりとなり面倒をみてきた弟の友吉が、嫁になる相手を連れて挨拶にやってきた。幸せな気持ちで出迎えたものの、高価そうな身なりの二人を見て心が乱れ…表題作をはじめ、「チャンネル銀河」の人気番組『松平定知の藤沢周平をよむ』が選んだ、庶民の哀歓を描く10篇。物語の舞台を巡る散策マップ付。
著者等紹介
藤沢周平[フジサワシュウヘイ]
1927年山形県鶴岡市生まれ。山形師範学校卒業。業界紙勤務を経て71年「溟い海」でオール讀物新人賞を受賞し、本格的な作家生活に入る。73年「暗殺の年輪」で第69回直木賞、86年『白い瓶』で吉川英治文学賞を受賞する。97年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐々陽太朗(K.Tsubota)
29
本書に収められた短篇は江戸の下町を舞台にした市井もので、すべて既刊の文庫に収められた作品から選りすぐられたものです。下町に住む職人や大工、博打打ちの男、女郎や水茶屋で働く女など、裏店に住む庶民の悲喜こもごもが描かれます。それぞれ皆、社会的には弱者という境遇にあって、道に迷い過ちも犯しますが、最後には小さな幸せを見つけることができます。そこにある小さな希望は藤沢氏の優しさであろうと思います。藤沢氏の弱い者を見つめる優しいまなざしが読者の心を温めます。2011/12/21
ぶんぶん
27
【図書館】藤沢周平、そんなに読んでない、「橋ものがたり」ともう一本市井物を読んだくらい。 で、読んでみるか、何から読もうか、と思案していたら図書館の棚に「松平定知」氏の選の一冊がある。 人が奨める本から入門した方が良いだろう。 読んだ・・・いろんな人が言う様に庶民の悲しみ、心の機微を描いた良書だった。特に「女」の人の心の揺れ動きが凄い、良く表れている。周平の世界、凄く心に入って来る、隣の本にも手を伸ばす「本所しぐれ町物語」、これにしよう。松平氏のお蔭で藤沢周平のファンなりそうです。ありがとう松平定知さん。2021/12/12
剛腕伝説
25
「松平定知の藤沢周平をよむ」で放送されたものからの10編を収録した一冊。表題作他既読のものばかり、それもかなり印象深いものばかりだった。最初は初読みの話がなかったので、少々残念に思ったが、再度読み直すことにより、より親しみと深みが増した。NHKアナウンサー松平定知の藤沢周平愛は半端ではなく、その思い入れに好感が持てる。巻末の「初つばめ江戸歩きマップ」は実際にかかわり合いの深い場所ばかりなので、ああ、ここがあの場面のあの場所なのかと、感慨深かった。全ての話が心に染みる。2021/06/11
ひ ろ
25
藤沢周平の醍醐味は短編にあり、とつくづく再認識させられる一冊。「踊る手」は、中でもちょっと代わった作品。夜逃げせざるをえなかった おきみちゃん一家の苦しさ。置き捨てにされたおばあちゃんの絶望感。長屋の人々の人情。そういった情景が幼いしん公の目を通して語られる。せつない。だが、読了感がたまらなく良い。ああ、上手い!と思わず唸ってしまった。2017/01/29
島の猫
22
勉強に時間を取られ関係がない本を読んでいる暇がない、と思っていた。久しぶりに図書館へ行く機会があって返却棚に藤沢周平の本が何冊か立ててあった。そんな暇はないと思いながら手にしたら、今読みたい!と頭ではなくて心が動いた気がした。迷いなく借りて2日ほどで読んだ。そうだ、こういう時間が必要だったんだ、と思った。藤沢周平の物語は日々忙殺されている時にこそ癒しの力を発揮する気がする。人情といえば軽く聞こえるだろうか。それでも登場人物の自然な思いの発露の描写は、読者自身の自然な感情の発露を促してくれるのではないか。2025/02/11