内容説明
社会的弱者、差別された側にたつ新しい「民衆派作家」像。
目次
1 はじめに―私と松本清張(国民作家とは何か;大衆性を持つということ;推理小説をリアリズムの文学に;「社会派」の意味するもの;清張とプロレタリア文学;清張作品の独自性;清張文学を巡る文学者の意見―三島由紀夫問題;異色の企業小説『空の城』;清張と司馬遼太郎の歴史観;私の好きな清張作品;清張における「政治」―共創協定を中心に;三人の一九四五年八月十五日)
2 松本清張・註釈付略年譜
著者等紹介
辻井喬[ツジイタカシ]
1927年東京生まれ。東京大学経済学部卒業。現在、セゾン文化財団理事長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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よこしま
26
底辺の所で見回す。◆辻井喬(堤清二)だからこそ、心の根底にあるものが似ている清張を検証できたのでは、と思います。学歴がなく不遇な青春を送っていた清張の、プロレタリア文学を継承する、末端の人たちの苦しみを書き続ける姿。辻井自身のエリートではありながら父や弟・義明との関係を考慮すると。◆三島由紀夫、司馬遼太郎との比較もとても斬新です。明治初期を理想とし幻想に走る三島との対極。無名であった人物が大成するまでの過程を描く司馬と似て異なる部分。◆一冊を通じ、辻井も含めた四名の作家の才能を垣間見ることができました。2015/11/08
katta
2
辻井喬が書いていることに意味がある。目新しい論ではないと思うけど、三島や司馬遼太郎などとの比較が面白い。なんとなく昔の作家と一括りにしちゃうけど、みんな15歳以上の年齢差があることを忘れちゃいけないよな。2011/02/14
Gen Kato
1
プロレタリア文学以外ではじめて「社会性」をもった作品を世に出した文学者が松本清張である、という論旨。司馬遼との対比もおもしろかったが、三島との比較はさらに興味深かった。文学を論じることは、その人自身の内面を語ることでもあるのだなあ、とも思わされつつ。2015/12/02
しんすけ
1
真の文学者とはこのような人物だろう。 それは清張のことでもあるが、ぼくは辻井喬も対象とする。 堤清二が財閥の御曹司に留まらず、辻井喬として生きて死んでいったことを噛み締めれば、ぼくの脳裏が行き着くのは、そこでしかないのだ。2013/12/15
midnightbluesky
1
辻井喬は松本清張というフィルターを通して、ある種のカミングアウトを行っているようにも思える。その姿はセゾングループ、西洋環境開発、メセナ活動のイメージからはほど遠い。有り余る環境に育ちながら不幸であったことへの恨みを、清張を通して発散させようとしているようにもみえるのだが。2011/03/22