内容説明
明治初期、吉原・根津遊廊を舞台にしたたかに生きた遊女・幻太夫を描く表題作をはじめ初期の諸短篇を収録する待望の作品集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
18
幻太夫が心中事件でなくなった花魁の源氏名盛紫の二代目を名のったのはあまねく知れ渡った名を継いで大きなツキを呼びたかったからである。財閥の総帥と恋仲になる幸運も束の間、男を別の女に奪われた幻太夫は切り落とした小指を香水箱に入れて、男に送り届ける。吉原・根津の遊廓でしたたかに生きた女性を描く。 「夕化粧」居酒屋に住み込むおふじの皮肉な恋の顛末。「朱唇」「藤の蔓」「出陣」「疑惑」「げんまん」収録。2003/02/20
ドナルド@灯れ松明の火
17
初期作品遡り2作目。うーん暗かったり、やるせなかったりの作品が多く、勝手に描いていた杉本さんのイメージからは違和感があった。多分本人が色々と試行していたのだと思う。2017/03/29
サンディK32
13
女性は恐ろしい… という事を肝に銘じてしまう短編集。表題作は中編で、逆境に克った遊女の話し。星亨さんという、明治期の政治家がチョイ役で出演。他はほぼ30ページに満たない短編、奈良時代から戦国まで舞台も色々。加藤忠広のエピソードは松本清張氏の『五十四万石の嘘』との比較も面白いかも。ラスト『げんまん』のやるせなさは、藤沢周平氏の市井モノを感じさせる哀感がせつない人情噺。2016/02/04
Totchang
6
表題作の他に短編5篇が収めれれています。表題作「妖花」に比べると他の作品からはあまり強さが伝わってきませんでした。表題作では「宮内」「盛紫」「田鶴」「幻太夫」と源氏名を変えながら、江戸から東京に変わった中で岩崎弥太郎を手玉に取った強い女郎を描サラッと表現しています。今やこのサイトでは見ることができない本作品の表紙の絵も、張店に並ぶ5人の女郎を美しく悲しげに描いていて好感が持てます。2018/05/09
wasabi
3
杉本さんの若き頃、昭和の時代に著された作風やテーマが、作家として円熟期を迎えた平成の時代のそれと違うのは当然なんだろうけど、この一冊の中でそれがよく分かる。かつては、加藤清正の嫡嗣・忠広、光明皇后こと藤原光明子、徳川家康など実在の人物を立てて、オリジナルヒストリーをつむぐ。結城秀康の出生秘話が興を引く。家康が秀康冷遇するウラには、実子や否やの疑惑あり。秀康の三男・松平直政の小説も書いて欲しかったが、かなわぬ夢となった。2018/05/20