内容説明
1941年、アメリカの映画界、新聞界に何が起こったか?本書は、『市民ケーン』の〈生い立ち〉について当時の状況をつぶさに語った映画論である。と同時にスキャンダルの洗礼にまみれたこの傑作を、生み、そして迎え入れたアメリカという社会についての文化論でもある。まさしく事件としての『市民ケーン』とは、新聞王ハーストをまきこんで、25才の寵児ウェルズと百戦錬磨の老獪な脚本家マンキーウィッツとがくりひろげた、富と権力と名誉をめぐる「並みはずれた」男たちの白熱のドラマだったのである。
目次
奇跡を期待された『市民ケーン』
新聞王ハーストに怯えた映画界
スキャンダルが映画の題材となった!
ハリウッドにやって来たジャーナリストたち
ニューヨーク記者時代のマンキーウィッツ
サイレント映画の台詞
30年代喜劇映画の都会性
新聞映画の隆盛
ハーストの「イエロー・ジャーナリズム」
アメリカ喜劇を駄目にしたスターリン主義
マンキーウィッツの酒と博奕の日々
騒ぎを仕掛けた聖なる怪物たち
ハーストをモデルにしたらどんなスキャンダルになるだろうか
ハリウッドに嫌われたウェルズ
『市民ケーン』を支持したジャーナリズム
スキャンダルに屈したアカデミー賞
つくられたウェルズ神話
脚本クレジットをめぐる駆引
ウェルズの映画作りの興奮と情熱
権力としてのジャーナリズム
「バラのつぼみ」とゴシップ的手法
ウェルズの仕掛けた魔術ショー
映画におけるハーストの虚像と実像
傷つけられたマリオン・デイヴィス
メロドラマにおける映画の神話性
メロドラマから蘇生した映画の魂
映画監督としてのウェルズ
ハーストの復讐
『市民ケーン』裁判
贖罪の山羊となったウェルズ