出版社内容情報
「あたらしい人を好きになるのは、初めての海で泳ぎ出す感覚に似ていると思う」
意識が戻ると、十七歳の瑠璃は砂浜で横になっていた。「君は溺れていたんだよ」沖縄・竹富島の青年、隼人に助けられたのだ。すべてに行き詰った恋人のトオルとお互い手首を結び合わせたまま、心中するために海に入ったが、トオルは瑠璃を捨てて逃げ去ったのだった。けれど、本当はトオルのために死のうとした、のではなかった。
「私は生まれたくなかったんです」――離婚を協議していた折、母は別の男を愛し、身籠った。しかし、男は亡くなった。――結局、夫婦は離婚しなかった。私は両親から、未来を奪ってしまった――。その事実を知った瑠璃は張り裂けそうな胸のうちを抱えながら、誰にもその話をできなかった。初めて、隼人にその話をした。
二十二歳の瑠璃は、万世橋のたもとにある、江戸時代から続くオリジナルの千代紙を手掛ける千代紙の花田に勤めている。突然店に現われた結城と名乗る男は、フランクフルトから千代紙を買うためだけに花田にやってきて、すぐまたトンボ帰りするという。どうやら国際的な画家のようだが、はじめて会う人間に警戒心を抱かせない。生まれ持った才能なのか…。気付くと瑠璃は、男の来店を心待ちにするようになっていた…。
「人の時間を奪う<時泥棒>に気をつけてね。」と声をかけられてはっとする。
瑠璃は結城と付き合い始めるが、結城はフットワークが軽く、瑠璃に対しても気前がいい。しかし同時にまわりの人間を翻弄し、混乱させる。ロンドンで開かれた彼の展覧会に招待された瑠璃だったが、やがてその身勝手さについていけず、単身で帰国する。
次の恋の相手は、ビジネスマン然とした新聞記者の西だった。話をじっくり聞いてくれる西に対し、自分が肯定されている、と瑠璃は感じた。井原西鶴の『好色五人女』の「八百屋お七」にちなんだ千代紙について話をしているうちに、西が妻子持ちで別居中だとわかる。やがて、瑠璃は西の家を探し当て、しばしば出かけ、遠目に西の家を眺めるようになった。そこで突然、西の妻から声をかけられ、ストーカー扱いを受ける…。
そして瑠璃は、七年の時を経て、またここ竹富島に戻ってきた。そこには、隼人が、いる…。ひとりの女性の、本当の愛を見つけるまでの恋の遍歴を描く。
安達千夏渾身のまっすぐな恋愛小説!
内容説明
17歳―彼と一緒に死ぬつもりで、手首を赤い糸で結び合わせ、瑠璃は竹富島の海に入った。21歳―海外からわざわざ訪ねてきた画家。その指から香る松脂の匂い。22歳―瑠璃が恋した男は「他人を振り回し、他人の時間を奪う“時泥棒”」だった。23歳―取材に訪れた新聞記者は既婚者だった。魅かれるものの、思いは焦れて。24歳―静養で訪れた竹富島。変わらない美しい光景と、そこには瑠璃を待つ人がいた…。彼女は幾度でも、恋に落ちていく。
著者等紹介
安達千夏[アダチチカ]
山形県生まれ。1998年、男女間の新たな絆を性愛とともに鮮烈に描いた「あなたがほしい je te veux」(集英社)ですばる文学賞を受賞しデビュー。鋭利な筆致で愛と死を綴った『モルヒネ』(祥伝社)が40万部を超えるベストセラーとなる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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