出版社内容情報
食べるってすごいね。生きたくなっちゃう。
大切な「あのひと口」の記憶を紡ぐ、
心に染みる、食にまつわる6つの物語。
日々苦しさに耐えるわたしたちのそばに、本書がある。
なんと心強い道連れだろうか。――寺地はるな
保育園児の息子がいる素子は、友人を誘い、日帰り温泉旅行へと繰り出す。ずらりと並ぶ季節の味覚を前にして、素子は家族の好みを優先するうちに、自分の食べたい物が分からなくなっていたことに気づく。家族が素子の好物を知らないだろうことにも。そして自身も、亡き母の好物を知らなかったことを思い出し……(『ポタージュスープの海を越えて』)。
心にじんわり効く、6つの食べものがたり。
内容説明
保育園児の息子がいる素子は、友人を誘い、日帰り温泉旅行へと繰り出す。ずらりと並ぶ季節の味覚を前にして、素子は家族の好みを優先するうちに、自分の食べたい物が分からなくなっていたことに気づく。家族が素子の好物を知らないだろうことにも。そして自身も、亡き母の好物を知らなかったことを思い出し…(『ポタージュスープの海を越えて』)。心にじんわり効く、六つの食べものがたり。
著者等紹介
彩瀬まる[アヤセマル]
1986年、千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で第九回「女による女のためのR‐18文学賞」読者賞を受賞し、デビュー。17年に『くちなし』で、21年に『新しい星』で直木賞候補となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さてさて
143
『風が吹いている。川のような、鳥の大群のような、私を別の場所に押し出す見えない流れがやってきている』。そんな感覚を見る主人公を描く〈ひと匙のはばたき〉を含め6つの短編が収録されたこの作品。そこには”食”を絶妙なアクセントとしてトッピングした彩瀬さんらしい物語が描かれていました。それぞれの短編に見るバラエティ豊かな物語に飽きることなく読めるこの作品。最小限の”食”の表現にも関わらずどこか”食”が印象に残るこの作品。“食”を取り上げた小説を描いても彩瀬さんはどこまでいっても彩瀬さんだったと実感する作品でした。2025/02/04
アッシュ姉
61
美味しそうな料理に心踊る小説ではない。彩瀬まるさんだから。食べることは生きること、心に染みる物語だ。いろいろ大変な時に読んだので、なかなかしんどかった。ゆとりがある時に読んだ方が心にじんわり効くかもしれない。2024/09/12
piro
40
食べものに纏わる6作の短編集。少し疲れた人たちにじんわり沁みて、心を温めてくれる料理の話が多かった。まだ温かさが残る鍋は明日になれば冷めてしまうけれど、一夜越え、また温め直せば一段旨みが増す。そして人もまた食べて、夜を越えて熟していくのだろうな。決して豪華ではないけれど、日々を生きていくために必要なエネルギーを心に与えてくれる一冊でした。『ひと匙のはばたき』のちょっとだけ異界を感じさせる所が好き。一番彩瀬さんらしいと感じた一編です。2023/10/20
よっち
37
今がどれだけキツくても、おいしいがいつかきっとあなたの力になる。大切なあのひと口の記憶が紡ぐほろ苦く心に染み入る6つの連作短編集。手伝っている叔父の店を訪れる女性の苦悩、一緒に住む相手が時折頼んでくる悲しい思い出のパン、うっかり不倫してしまった妻の複雑な想い、仕事と家事の日々に疲れた妻と保育園仲間の逃避行、子供に先立たれたのに周囲に気を遣う友人、娘も構ってくれた趣味仲間の入院。辛く苦しい時に寄り添ってくれる人たちや優しく温かく癒してくれる料理の存在と、救いが垣間見えるそれぞれの結末が印象的な物語でしたね。2023/10/27
白ねこ師匠
31
[★★★★☆/◎]料理を通じてどこかしっくりこない違和感を抱えながら生きる人たちの心象を描く短編集。粗筋は書きにくいのだけど、いつの間にか没頭し静かに引き込まれる物語ばかり。「シュークリームタワーで待ち合わせ」の、傷ついた友人に向き合う覚悟を示す場面がとても好き。自分も今うまくいかない事ばかりでまさに耐え続けている日々だが、どの編もそんな気持ちに「分かるよ」と共感してくれるような一幕・一文があり、じわりと感動が込み上げた。またじっくり再読したい。寺地はるなさんの解説もすごく良かった。2024/09/23