出版社内容情報
ドイツの大学に招聘され研究プログラムに参加することになった詩人。
ベルリンを拠点にヨーロッパを駆け巡る!
2022年コロナ禍、ウクライナからの難民や平和を願う青と黄色の国旗をみつめながら暮らす日々―あちらこちらで出くわす鴎外先生と森を歩きながら二人の作家が交錯する。
「コロナ禍が来て、私はすべての移動を止め、ただ熊本で暮らすようになった。そのときにはすでに、死ぬべき家族は死に絶え、離れるべき家族も離れ果て、独りになっていたから、独りでしかも移動をせずに暮らすというのは、まったく初めての経験だった。
それで私はとんでもないことをしでかした。」
内容説明
2022年、森〓外生誕160年・没後100年―私はドイツに渡る。〓外先生の隣で書き留める、私小説。
著者等紹介
伊藤比呂美[イトウヒロミ]
1955年東京都生まれ。詩人、小説家。1978年、詩集『草木の空』でデビュー、同年に現代詩手帖賞を受賞。1999年『ラニーニャ』で野間文芸新人賞、2006年『河原荒草』で高見順賞、2007年『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』で萩原朔太郎賞、2008年紫式部文学賞、2015年早稲田大学坪内逍遙大賞、2019年種田山頭火賞、2020年チカダ賞、2021年『道行きや』で熊日文学賞を受賞。2017年『切腹考』で森〓外作品に入り込み生死を見つめ論じた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たま
60
実は伊藤比呂美さんの本を最後まで読めたのは初めて。今まで中途で集中力を失っていたが、この本は私には不思議な求心力があって完読できた。2022年鴎外のメモリアルイヤー、新型コロナウィルス禍さなかのベルリン滞在記で、ベルリンという環境+鴎外について書くという二つの制約が緊迫感を生み、幾つかの章は散文詩のような完成度を感じた。伊藤さんが興味があるのは、19世紀末欧州で新しい潮流に敏感な鴎外。例えば鴎外訳リルケ作の『白』。鴎外の幅広さ奥深さの前で、『舞姫』が私小説みたいに読まれている鴎外が気の毒になる。2024/05/14
ネギっ子gen
58
【6月のベルリンはひとつの大きな森だった。街だとか都市だとか思っていた。大間違いだった。……全体は森の中に埋没していた】墓碑に遺言により「森林太郎墓」 とだけ刻した森鷗外が留学したベルリンを訪れて、書き留めた「森林だろう通信」という名の私小説。巻末に参考文献。巻頭から、<森鷗外が今生きていたら、SNSで時事について熱心に発信していたのではあるまいか。文学者であるとともに政府高官だから、ときには政治的に偏ったことも発信し、瞬く間に炎上し、それでも黙っておらずに、いちいちリプする。熾烈な論争に縺れ込む>と。⇒2024/04/30
メタボン
33
☆☆☆ 伊藤比呂美は、どんどん、エッセイ、詩、小説の垣根がなくなっている気がする。昔からのファンとしては、やはりどっぷりと詩の世界で表現してほしいものの、領域を限らず自由に書いてもらうのも、味があって良いかもしれない。2024/04/11
えも
25
詩人、伊藤比呂美のドイツ紀行▼じゃなくて、研究者として、3ヶ月間、ベルリンの大学で鷗外を研究してきた▼はずなんだけどやっぱりドイツ鷗外紀行▼小説のコーナーにあったけど、エッセイのよう。でも鷗外の小説も割とそんなものらしいから、それでいいんだろう。2024/06/22
kuukazoo
20
2022年6~9月にベルリンの大学の研究プログラムに招聘された際の滞在記。研究テーマが鷗外なので鷗外の話が多いが、ドイツ語がわからず乗り換えでピンチに陥るも親切な人々とGooglemapとGoogle翻訳のおかげで何とか切り抜けたりベルリンの民の樹木や森への愛に激しく共感したり(街路樹が成長しすぎて石畳が盛り上がったり虫がついても木を伐るという発想がないっぽい)ベルリンの壁の跡地に行っていろいろ思ったり深夜海で泳いでたという男性と星について話したり詩を朗読しながら初めて踊ったという話など印象深かった。2024/02/04