内容説明
人類の長い歴史の中には、他者を蔑視し排除する言葉が常に存在していた。コロンブスの新大陸発見、ダーウィンの進化論、ナチ・ドイツによるホロコースト、そして現代日本における差別意識まで、古今東西の著作を紐解き、文明と野蛮の対立を生む人間の精神史を追う。人間が人間を「野蛮な存在」とみなす言葉がなぜ生み出されてしまうのか、全15回の講義から考える。
目次
イントロダクション 私たちの“闇の奥”
1 “野蛮”の源流―言語・法・宗教(西洋の“野蛮”観;文明と野蛮の構図;人種差別と奴隷制)
2 啓蒙思想と科学の時代(ナチュラリストと哲学者;展示されたひとりの女性;ダーウィン『種の起源』のインパクト;『人間の由来』と社会ダーウィニズム)
3 植民地主義からホロコーストへ(『闇の奥』と植民地主義;忘却されたジェノサイド;ナチズムの論理と実践;ナチ優生学と安楽死)
4 日本社会の“闇の奥”(近代日本の“闇の奥”―人類館、朝鮮人虐殺、七三一部隊;ヘイトスピーチと相模原事件;“野蛮の言説”とどう向き合うか)
著者等紹介
中村隆之[ナカムラタカユキ]
カリブ海フランス語文学研究。アフリカ系文化全般を視野に入れた“環大西洋文学”の展望で研究を続ける。現在、早稲田大学准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
1959のコールマン
57
☆5。読み応え十分の良書であることは間違いない。特にダーウィンを取り上げた項目では、なかなか踏み込んだ議論を展開している。また、レオポルド二世によるコンゴ自由国における大虐殺(一千万人の死者!)も記載している。ただ、これ1冊だけで世界と日本の両方をカバーするのはちょっと無茶な気がした。各項目が短すぎて物足りなさを感じる。参考文献がたくさん紹介されているので、これで補完するしかないか。なお内容は「欧米の」差別と排除の精神史が中心。「日本の」差別と排除の精神史をもっと詳しく取り上げて欲しかった。2020/12/02
ATS
16
外集団への恐怖意識や金儲けなど利己的利益が優先されることで差別や排除が生まれるのだろう。その大義名分となる理論は後づけで、キリスト教的世界観だろうが進化論の科学的世界観だろうが権力者側からすればなんでもよいのだろうと。今の日本でも社会保障を餌に高齢者を叩いているのを見かける。「高齢者が多すぎるから安楽死させろ」という論調もあり「ユダヤ人は社会の邪魔者だからガス室に送れ」と言うナチスとどこが違うのだろうと思う。基本的人権を尊重するという公正さを意識したいがなにが正しくて正しくないのかはなかなかわからない。2024/10/20
wiki
16
じっくり大学の講義形式で「野蛮の言説」について読み進められる一書。結果、歴史を知らない恐ろしさをまた新たにすることとなった。「安楽死政策(※T4計画、読者注)の責任者の処刑を是とするというのが常識的感覚である、とするならば、<野蛮の言説>の恐ろしさとは、むしろこうした常識的感覚に潜んでいる」「私たちの<常識>など、結局のところ、時代の要請如何でいとも簡単に非人間性を帯びる」等。人間が他者を蔑視する思想は当時の常識であった。科学的な是でもあった。こうした歴史的文脈を知るにつけ、思想の正邪検討の重要性を思う。2020/04/23
masabi
13
【概要】西洋の奴隷制からホロコースト、日本の相模原障害者殺傷事件に至るまで相手を人間扱いしない差別的言説の論理を辿る。【感想】本書では差別意識が社会内の価値観の一部をなして常識として流通することに着目する。文明と野蛮の対比、人種間の序列など差別と排除を正当化する当時の科学的知見を概観し、困難ではあるがそのような常識を批判的に捉えることの重要性を主張する。最後に、人種間、健常者と障害者を隔てる言説に共通する知性、能力による選別を現代社会が能力主義として構造的に孕むものと指摘する。2022/11/10
かんがく
12
アメリカ先住民虐殺、黒人奴隷、コンゴ自由国、博物館における人の展示、啓蒙思想と宣教師、進化論の悪用と優生学、ホロコースト、震災時の朝鮮人虐殺、そして現在のヘイトスピーチと相模原事件まで、ある性質の人間を一方的に「野蛮」「劣等」と捉えることの暴力性をフーコー、アレントなどの思想を用いて解析していく。講義をもとにしているので読みやすいし、章ごとに本の紹介もあるため、「近代史」の入門書としても適切だと思う。最後の、知性とは日常から切り離された遠い国/遠い過去への注意力という定義も良い。2025/01/16
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- 和書
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