内容説明
太宰治の文学は、どのように生み出されたのか―これまで紹介されることの少なかったノート・原稿・草稿・写真など、貴重な資料をフルカラーで掲載。残された資料を読み解き、津島家の歴史から、太宰の生涯、そして太宰文学誕生の背景に迫り、人間・太宰治の実像を明らかにする。代表作『斜陽』や『人間失格』のほか、新発見の『お伽草紙』直筆原稿も掲載!
目次
第1部 「太宰治」のルーツ
第2部 ノート・落書きを中心に
第3部 原稿・書き換えの跡をたどる
第4部 典拠・小説に用いた資料
第5部 戦争の影
第6部 「斜陽」と「人間失格」
巻末資料
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
29
文学作品の直筆原稿や創作メモなどを見ていると、活字化された本ではわからない作家が創作に賭ける情熱や息吹が生々しく伝わってくる。まして学生時代のノートに同人誌、手紙や写真など断簡零墨まで揃うと、ある人生の結果として生み出された文学とは何か考えてしまう。女好きで金にだらしなく睡眠薬中毒にもなる生活無能力者でもあった太宰治が、今日まで長く読み継がれる数々の小説を書けたのか。伝記にある重大事件の事情や創作の舞台裏を裏付ける資料なども掲載されており、150頁足らずだが太宰の生涯を資料に語らせた読み応えのある1冊だ。2020/08/18
ロマンチッカーnao
27
太宰治ファンにはたまらない一冊です。数々の原稿の写真があるのですが、そこに手を加えているのが、すごいです。めちゃくちゃ書き加えています。多いのだと原稿用紙の枠外にめっちゃ細かい字で300文字以上書き込んでます。太宰がどうやって文章を作って行ったのかその過程がわかります。司馬さんの原稿も上からの書き込みが多くて見ていて楽しいけど、太宰治もそうでした。ほかに絵も多いし、手紙も、太宰治の資料集の決定版と言っていいんじゃないでしょうか。2019/06/09
彼岸花
19
津島家は大富豪で、兄弟も多数でした。太宰は乳母たちに養育され、母親の愛情に飢えていたのでしょうか?幼少期が、既に孤独や疎外感の出発点?人の日記やノートを読む行為は、心の内面に立ち入ることで、とても後ろめたさを感じます。けれども、高校時代から、芥川の影響を受けていたことがよくわかりました。『人間失格』の草稿が、後半に掲載されていますが、葉蔵をどこまで『世間通』にするか、最終段階まで迷っていた様子が描かれており、とても興味深かったです。2019/05/25
冬見
14
手元に欲しくて購入。前半部は何度か目にしたことのあるものも多いが、後半部は目新しく興味深い資料が多かったので、たいへん満足。戦中戦後にかけての検閲の跡、『お伽草紙』新資料、『斜陽』創作メモ、『人間失格』完成稿と草稿の比較あたりが特におもしろかった。創作メモや草稿などの所謂「創作の過程」って、たぶん多くの作家にとっては見られたくない部分なんだろうけど、好奇心に負けて気になったら気がすむまで根掘り葉掘り追いかけ回してしまう。これがまた楽しいこと楽しいこと。作品が全てだと思っているけど、それはそれ、これはこれ。2019/06/08
冬見
11
再読。推敲の過程を見るのが好き。『右大臣実朝』の「滅亡」の部分や『斜陽』の直治の遺書、『人間失格』の「愛情」「思ひやり」「必死の奉仕」など、推敲の過程から作者が描こうとしていたものが浮かび上がってくるのが面白い。もちろんその作者の描きたいものはわざわざ舞台裏を覗かなくとも作品を読めば読み取れるということは前提として、野暮も承知で作者の思考の過程の一部分を覗き見するということ自体が楽しい。それにしても、原稿はともかく学生時代のノートまで死後公開され書籍化されるなんて思ってもみなかっただろうなあ。2025/01/28