内容説明
まだ明け切らぬ白い道を、守宮の弥八は背を丸めて歩いていた。三十歳の働き盛りには見えない後姿であった。弥八は元からくり人形の細工師で、手先の器用が徒で盗みの道へ。約一カ月前にどじを踏んで捕まり、十両盗めば首が飛ぶといわれる土蔵破りの総額が千二百余両とて、市中引廻しのうえ獄門を申し渡されたが、“赤猫”で牢払いになったのだった。弥八は思い悩んでいた。行こか逃げよか、決心がつきかねているのだった。引き返せば罪一等は減じられる。が、ご赦免になるわけではなく、いずれ三宅か八丈か…。と、そんな弥八の心の迷いに、そっと声をかけてきた男があった。(第八話「泥棒市」)―五と二の半目を押し通して“五二半の旦那”と呼ばれる甲斐半次郎の捕物話全八話。