内容説明
子の刻近く、いま江戸へ着いたばかりと思われる旅姿の女が湯島聖堂裏を通りかかった。と、その聖堂の塀によりかかるようにして死んでいる武士の手に握られているもの、それは飛騨山中に咲く黒ゆりの花―江戸では“死人花”と呼ばれているものであった。驚愕の色をその双眸に漂わせ、大きく見開かせる女はその意味を知る者であった。“死人花”の秘密とは。黒衣の一団に追われる女、珠枝の危急を救ったのは長屋の住人、由利左近と名乗る浪人であった。黒ゆり谷の黄金をねらうのは元飛騨郡代の青井文太夫、悪商人泉屋玄兵衛一派であった。お姫さま珠枝と由紀の姉妹を助けて老人左近の活躍は。―吉か凶か。秘境黒ゆり谷の黄金をめぐって渦巻く“死人花”の謎とは…。