内容説明
バッハといえばフーガ―こうした結びつきはバッハが生きていた当時現代のように自明ではなかった。18世紀を通してバッハの音楽がどのように理解され「対位法の巨匠」として称揚・顕彰されていったか―そのメカニズムを、同時代の音楽美学の丹念な読解によってあぶり出す。新進気鋭のバッハ研究者による快著!
目次
序論
第1章 ハイニヒェン―数学的音楽観としての対位法を批判する
第2章 マッテゾン―対位法をめぐる伝統と革新
第3章 マールプルク―「ドイツ、フーガ、バッハ」を語る
第4章 キルンベルガー―バッハの作曲技法を継承する
第5章 ライヒャルト―バッハ批評の異端児
第6章 ネーゲリ―バッハの対位法作品出版に挑む
結論
著者等紹介
松原薫[マツバラカオル]
1988年神奈川県に生まれる。2011年東京大学文学部卒業。2017年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。チューリヒ大学客員研究員を経て、現在、日本学術振興会特別研究員PD(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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trazom
41
対位法の受容史としての博士論文。ハイニヒェン、マッテゾン、マールプルク、キルンベルガーらの著作を丁寧に辿ることにより、対位法の持つ理性的・人為的側面が批判され、感性的・旋律的な音楽観が萌芽する時代に、バッハがなぜ否定されてきたかの歴史がよく分かる。ただ、バッハの対位法は、決してマッテゾンの批判した「音程の数学的な操作」ではなく、18世紀に成立した新旧の音楽観を包摂するものであったからこそ再評価された事実を、もっと掘り下げてほしかった。「バッハと対位法の美学」でなく「バッハの対位法」こそが重要だと思うから。2020/05/16
ひばりん
4
バロック音楽の専門書であり、注目の若手音楽学者による待望の単著である。一般的に言って、西欧音楽史には「音楽=数学=神学」という中世的なミクロコスモス的宇宙観から、個的表現芸術へと世俗化したという大きな物語がある。本書の貢献は、そうした史観を、同時代の「通奏低音理論・対位法論」の言説分析という形で、厳密に実証したところにある。西欧音楽は、〈音楽理論〉に付随していた宗教的宇宙観を自ら払拭して、一つの「表現手段」として徐々に語り直すことで普遍性を獲得したといえよう。西欧音楽史の「要所」を的確に記述した好著だ。2020/04/29